「……朝か」
一昨日の夜から夜から昨日の朝にかけての大捕物は
一人の死者も出さずに砂漠の民こと、ストレシア騎士団に取り押さえられ、幕を閉じた。
ルンドは昨日からこの街で、次の有力そうな手掛かりを見つけ出そうと躍起になって聞き込みをしたが、収穫はというとゼロに等しいものだった。
――どんなに些細な事だっていい、何か確実な手掛かりが……――――。
物音がした、しかしルンドは気付かず、強面で一点を見るでもなく見ていたので、結局ドアを開けて入ってきた人物をギョッとさせる事になってしまった。
ルンドがようやくそちらに気が付いて見やると、気を取り直してこちらに歩み寄ってくる人物、セザールがいた。
「や、おはよう。昨日の収穫はどうだった?」
ルンドが首を横に振るとセザールはそうか、と言って手元の椅子に腰掛けた。
「で、これからどうするんだ?」
「……これ以上留まっていても仕方ないのは昨日で分かりましたから、次はアスリースに行って、また情報を一から集め直してみることにします」
「そうだな、ストレシア騎士団もそんな子は見たこと無いって言ってたしな」
「ええ……ところで、あなたはこれからどうするのですか、昨日見せて頂いた、あの小さな鉱石の研究をこの砂漠でされていくのですか?」
そう言われて思い出したようにセザールは懐から小さな半透明の石を取り出し、懐かしい物でも見るようにぼんやりと眺めた。
「この街に来たのも、盗賊団に追われてたまたま逃げ込んだだけだし、砂漠だって、この石が変化して出来たという最後の結末にすぎない。
俺が知りたいのは<理由>なんだ。
成分なんかも興味あるが、今一番知りたいのはどうしてこの石はこんな特性を持った
のか、だ。
俺も、これ以上砂漠にいても結末しか拝めそうに無いからな」
「……決めた、俺も一緒に行くぞ。
嫌と言われても付いて行くからな、なんだかお前の周辺でこれからなんか面白そうな事が起こりそうな気がするんだ。
放浪のアルケミストこと、セザール様が言うんだからな、間違いない」
出立の準備をしてくるから、お前も早くしろよ、と言い残して部屋を去ったセザールに、ルンドはやれやれと溜息をついた。
出立の準備が整ったルンドとセザールは階段を下り、宿の出口へと向かった。
「あっ! その人だよ、ノーティスちゃん!」
「えっ、どこ! どれ?! おばちゃん!」
急に騒がしくなった宿内を、何かあったのかと二人が振り返ったその時、ルンドはまだ子供と言っても差し支えない歳位の人物と目が合った。
「その人よ、それ!」
「これ?! こいつかっ!」
人をこいつ呼ばわり、挙げ句の果てに指差す失礼極まりない少年がいた。
「……なんだかお前に用みたいだぞ」
「……その様ですね」
あまりの騒がしさに呆れ返っていると、少年が走り寄ってきて、ルンドの荷物を逃がさないとでも言う様に強く握った。
「あー良かった、入れ違いになるとこだったよ。あ、俺の名前はノーティスって言うんだ。
あんたにお探しのレイチェルさんの情報を持ってき……痛ッ!」
「どこだ! あの方は今何処にいるんだ!?」
さっきまでの冷ややかな姿勢はどこへやら、ルンドはノーティスと名乗った少年の肩を思い切り強く握った。
「痛いって言ってンだろ! 離せよ!」
「あ、ああ、すまない」
ルンドの手を払いのけて、肩を気遣う様にゆっくりとさする少年に今度はセザールが問いただした。
「情報っていうのは?」
「なんだかなー、むかついたから話したくなくなっ……」
ヒュッ
いつの間にかルンドの手にはクォートが握られていて、その切っ先はノーティスの鼻面ギリギリで止められていた。
慌ててセザールが何か言おうと剣の持ち主を見やると、今度は開きかけた口をまた閉じて黙ってしまった。
今のルンドには話し掛けない方が長く生きられる。
そうセザールは確信した。
「話すよな?」
静かにそう言うルンドは口調までも変わっていた。
「あーあ、情報提供なんて考えるんじゃなかった。
あんなアブない奴だって分かってたら絶対あんな事しなかったのになぁ」
呟きながら両肩をさする、まだ肩からは痛みが消えない。
アルフェリアは結局、金貨五枚と情報交換することになり、ルンド達に、自分が知っている限りの情報を半ば脅され気味に教えることになった。
「あーっっ! 本っ当ーに腹立つ!! 二度とあいつになんか情報提供してやらねえからな!!」
二人のラジアハンド騎士の元へ帰る途中、アルフェリアは近くに置いてあった酒樽を腹いせに魔法で吹き飛ばした。
「今度会ったら一発こいつをお見舞してやるあの……そう言えば名前聞いてなかったな……まあいいや、とにかくあいつよりも先に情報獲得してレイチェルとかいう人を見つけ出してやる!」
何か当初の旅の目的とはかけ離れたことを、怒りのあまり口走るアルフェリアだった。
「……で、あの坊主が言ってたアルサロサとかいう街に行くのか?」
これからは森だからということで、馬を二頭買いそれにそれぞれ跨り出発し、セザールがいつも通りの落ち着きを取り戻したルンドに聞いた。
「はい、今のところはそうしようと思っています。
他に手掛かりもありませんから……」
「だよな。
でもその街ならあと一日も歩けばいける距離だ、情報の古さから考えたとしても、女の子の足じゃそう遠くまで行けないだろうから、すぐ見つけられるだろ。
楽勝じゃないか」
励まそうとして言ったことだったが、何故か逆にルンドは落ち込んでしまった様だった。
「そうお思いでしょうが、そうでもないんですよ。
あの方は、レージラールが出来るんです」
「あ……」
じゃあどうやって掴まえるんだよ、と聞き返しそうになったが堪えた。
こいつだってどうしたら良いのか分からないのだ。
失踪したから居ても立ってもいられなくなって探しに来た。
ただそれだけなんだ、と思った。
「……じゃあ早いとこその子がレージラールを使わないうちに探し出そうぜ!」
勢いでつい頭を強く叩いてしまった、
それからついさっきのキレたルンドを思い出してサーっと血の気が引くのをやけにリアルに感じた。
ルンドが振り向こうとする。
「うわっ、ごめん! そんなつもりじゃ……」
――アレ?――
ルンドはただセザールを見ただけだった。
「そうですね、早く行きましょう!」
しかも、やけに元気になっていた。
――殴られるのかと思った――
冷や汗を拭うセザールを、馬上後方からルンドは懐かしいものでも見る様な眼差しで見た。
「……この人はグレッタや、あの方と同じ様な雰囲気を持っている……この人になら……かもしれない」
「うん? なんか言ったか?」
「いいえ、何も」
不思議がって頭を掻くセザールを見ながら、ルンドは後方で滅多に見せない笑みをたたえていた……