ファンタジア

セザール5

「これが奴らの手口なんだ」
 ちょっと離れた所にいた男がいきなり語り出した。その場の全員が目を向ける。
「どこかで聞いたんだ。最近の奴らはストレシアの騎士団、なんてったかな。確か、『砂漠の民』だったかな。それを恐れて砂漠の中では襲わなくなった。その代わり、砂漠周辺の町で待ち伏せして、砂漠を越えてきたキャラバンや旅人を襲うんだとよ」
「その、待ち伏せって、これのことかい? こんなにあからさまじゃあ、誰も寄り付かないよ。違うんじゃないかい?」
「奴らはきっと、獲物が近づいたら俺らを町に出すんだ。そして、いつも通りに振舞わさせる。もちろん、奴らは俺らの中に紛れ込んで目をぎらつかせているはずだ。獲物が油断して、良い具
合にばらけた所で一気に、そうでなきゃ、じわじわと潰していく……」
 重たい空気をひしひしと感じながら、俺は口を開く。
「けど、俺は突っぱねられたぞ。一応、旅人らしくしてたんだけど、どうだい?」
 男は、俺の問いに答えてはくれない。
「もしかして、近く、あんたよりずっと大きい獲物がここを通る?」
 代わりに女将さんが答える。
「するどいね。それはたぶん正しいよ。んー、キャラバンか、軍か国の輸送隊と言ったところじゃないかな、この規模を考えると」
「こ、怖い事、言うね。それじゃ、私達のことなんてお構いなく戦争始めますって言ってるようなもんじゃないかい」
 再び静まり返る一同。
 そのとき、スッと女将さんが立ち上がり、上を見てくるよ、と言って階段に向かった。
 俺も立ち上がる。
「あんたは下にいなって。見つかったら何されるかわかんないよ」
「へーきへーき。初めからここにいた者だって言えば誤魔化せるさ」
 引き止めるのもかまわず、外の様子を見に行くと言った女将さんの後について行く。

「ほんとに静かだ」
 地下への階段の近くで耳をすます。確かに、一階に来ても特に何も聞こえない。
「ひっ?!」
 入り口のほうへ向かっていた女将さんが声をあげた。
 その声に嫌な予感を感じて、女将さんの元に駆け寄る。
「…………。おい、こりゃ一体。……あ、あいつは」
 女将さんの視線の向こう、見るとそこにはとてつもない光景が広がっていた。
 通り中に人が転がっている、誰かは用意に予想がつく。が、しかし、そこにはもう一人、人間がいた。彼だけは立っていた。
 そいつは一度こちらに鋭い目を向け、そして、そっぽを向き、再びこっちを見てこう言った。
「すまないが、かくまってはくれないか。いや、ほんのちょっとの間でいい」
 俺たちは目を丸くしたまま、ただ、うなづいていた。

「ぅおい!! てめぇほんとに隠してねえんだな!?」
 怒りに任せて怒鳴り散らすそいつは、女将の胸倉をつかんでいる。
「放してよ! この野蛮人! さわるんじゃないよ。私はねえ、あんたみたいのがうじゃうじゃしてる外から誰かを入れようなんて馬鹿考えないんだよ!」
 ひるむ様子なく、勇ましく、怒鳴る。
 そいつは骨格がおかしいのではないかと思えるほど眉間にしわを寄せ、女将に顔を近づける。
「おい、ほっとけ。ここにはいない。次だ」
 これぞとばかりに倉荒らしをしていた仲間たちが諦めたようで、上に走って行く。
「くそっ!」「わっ!」
 そいつは女将を放り投げると、他と同じく走って行った。
「あいてて。全く、本当に嫌な奴らだね。……もう大丈夫だよ、出ておいで」
 ぶつけた尻をさすりながら、女将は近くの床に向かって話し掛けた。
 すると、さっきまで床だったはずの所に切れ目が入り、抜け落ちた。そして、二人の男が出てきた。
セザールと、『ルンド』と名乗る男だった。
「……はー、すごい声だったね、女将さん。下にいたのに鼓膜が危なかったよ、はは」
「何馬鹿言ってるんだい。彼、怪我 してるんだろう? 早く治療してやんな」
 すると、ルンドは女将に目を向け、
「すまない。それより、ここに16、7歳位のエルフの少女は来なかっただろうか。探しているんだ」
 と言った。

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