「ぐぁ〜……ぐぁ〜……ZZZZ……」
「? ……寝てしまいましたね……?」
楽園から出てきた男に小突かれ、そのままだらしなく寝入ってしまった男にレイチェルは呟いた。
とっさに魔法でもかけられたのか?とも思い、少し警戒態勢をとろうともしたが、小突いた本人もあっけにとられていた事もあってその場でその小突いた男の方をを見つめていた。
「あんた、ここがどういう所だかわかってるのか?」
「えっ……?」
あっけにとられた顔から、レイチェルと目が合うと呆れ顔になり、レイチェルの疑問の声を聴くとげんなりとした表情になる……その見知らぬ男の人にレイチェルは少なからず、好感を覚えた、人見知りするタイプのレイチェルは自分から好感を持つ人は少なく、自分から好感を持てた人物は今までにはたった一人しか居なかった。
何も言わず国を出てきてしまった事を、その人が怒っているか心配だったが、そのうち追いかけてくるだろうと言う予想をたて、その時にいいわけをすることに決めた。
「……はぁ……まったく、何も知らないのか? いいか! ここは身売り屋だぞ!?」
「……み、身売り屋ですか〜?」
少し怒鳴り声混じりで言ってみたものの、その言葉の意味を少しも理解していないレイチェルにその男の人は脱力していき、膝を折った。
「!? 大丈夫ですか〜? お腹でも痛いんですか〜? ええと、待っててください今、魔法で治しますから〜」
「えっ? いや、違うんだが……」
そんな男の弁解も聴かずにレイチェルは腹治しには十分すぎる程の高位の回復魔法を唱え始めた。
「大地神マーヴァリースよ……我が名はレイチェル・ヴァレスト……汝の大いなる慈愛の御心を光とし、我が名のもとにその姿を現わせ!
ラディレール!!」
神言を唱えると、レイチェルの手の平から虹色の輝きを放つ小さな光が出たかと思うと、男の腹のあたりに来ると、さらに輝きを増し、男を包み込み……最後にまた強い光を放つと、そのままあたりの闇にとけ込んでいった。
「驚いた……これはプリーストの中でもかなり高位の者にしか出来ないと言われている上位回復神法じゃないか……」
「……? そうなの? けど、もうこれでお腹は治ったはずですわ〜紅月だから少し神法の力が弱いのですけどね」
あっけらかんとしたレイチェルに男は驚愕の表情がまだ直っていなかったが、暫くすると、今までとも、さっきまでとも違う真面目な表情になっていた。
「俺の名はフォルクス、あんたはさっきの神言から言うと、レイチェルって言う名前だそうだが……(ん? どっかで聞いた様な……)
あんた、本当に何ものだ? 旅途中のプリーストなのか?」
「えっ……と……」
レイチェルは神法を使った事を少し後悔した。
神法と魔法……正反対のコレにも一つだけ共通点がある……それは、術者の名前を名乗らなければならないのだ。
レイチェルは一度、単にめんどくさいから!と言う理由で名前の省略……あるいは詠唱の省略を試みたが、未だ完璧に出来た事は一回も無いのであった。
殆どは発動しないか、効力が格段に落ちるか……である。
「……ええ、確かに私はレイチェルです……けど、プリーストではないんです〜」
「あんな凄い神法を使っておいてプリーストじゃないだと? だったらなん……ぁああーーーーー!! もしかして!」
(神力国家ラジアハンドの王室の正規の神官騎士。
「我がラジアハンド王国のビショップ猊下をお探し申し上げている」
「行方不明……ね」
いったいどういうばあさんなんだ?)
あの時の光景がその瞬間フォルクスの頭の中をよぎった……。
「あんたは、ラジアハンドのビショップか!?」
「…………」
「まったくなんで行方不明なんかになるんだ?
さっき近くの酒場にラジアハンドの騎士がいたぞ?
なんなら送っていくが……」
「…………」
沈黙を守るレイチェルにフォルクスは腰をかがめてレイチェルの顔を覗き込んだ。
どうみても自分より年下の愛らしい少女が一国を動かす程の力をもつビショップとは思いがたい……ビショップと言うのはフォルクスの出身国アスリースはもちろんの事、ほとんどの者が老いて年月を重ねた者だった事もあったかもしれないが。
しかし、その実力はついさっき証明されたばかりである、それに、ラジアハンドからここ、ストレシアにたった半日でこれると言うのは、ビショップだけが行使できると言う移動魔法を使わなければ無理な話し……。
しかし、ここでフォルクスはさっきの仕事の事を思い出した……
たしか、あの名刀:アリムラを運べばいいはずだったよな……。
この移動魔法で……。
考え事をすると、動作も止まるたちなのだろうか?
レイチェルは覗き込まれたままの姿勢で考えこんだフォルクスに遂に恥ずかしい思いが我慢できなくなった。
「わ、私にはやることがあるんです〜だから帰れません〜」
「やること……? どうだ? 取引しないか? 俺はあんたの事を連中に言わない、その替わり……俺が今度引き受ける仕事を手伝うんだ」
「……どんな仕事かは分かりませんが……言わないでくれるというのなら〜」
コウショウセイリツ!?