「んがっ!」
エルファは自分の口をふさぐ男の手を勢い良く噛んだ。
「っ……」
男はエルファの口をふさいでいた手を離したが、逃げださないようにもう片方の手でエルファの左腕を掴む。
だがエルファはそれだけで充分だ。
楽だけでも逃げてもらおうと思ったのだ。
「らくっ! 逃げろ! ……ぐっ……」
叫んでいる途中、エルファの鳩尾に男の拳が命中した。
「エルファさん?」
エルファの叫び声を聞き、楽は目を覚ます。
外での騒ぎが楽の耳に入ってきた。
「エルファさん!」
隣に置いていた剣を持ち、テントの外に出る。
そこには、赤い布を額に巻いた五人の男達がいた。
その中の一人は、気を失っているエルファを抱いた男もいた。
楽は、剣を鞘から抜き取り構えた。
柄を握る手に汗が滲む。
その時。
『がるるっ』
男達と楽の間に一匹の黒いライオンが現れた。
牙が鋭く尾も長い。
男達は一瞬引いたが再び気を取り直した。
テントの周りにいる、エルファを抜かした六人がそのライオンに注目した。
「イリス! 倒してもいいけど殺しちゃ駄目だよ」
ライオンが走ってきた方向から女の声がした。
六人はそっちの方向に目を移した。
そこには肩までの髪を持った少女がいた。
髪や瞳、鳥の色はよく見えなかった。
『がるる……』
イリスと呼ばれたライオンは、男達を一人一人に近づいていった。
楽には何をしたかは見えなかったが、イリスの近づいた男達は皆、砂漠に膝をつきへたり込んだ。
「……! エルファさん!」
エルファを抱いた男がへたり込んだのを見て、れくはエルファを助け出す。
「ふぁ? ……らく? ……わっ!」
目を覚ましたエルファは全員を倒して少女の元に行くライオン・イリスを見て尻餅をつく。
「あなた達大丈夫?」
尻餅をついたエルファを助け起こす楽の後ろからイリスを従えた少女が近づいてきた。
「あなたは一体誰ですか?」
楽が怪訝な顔をして聞く。
「わたしぃ? わたしはヘスティア・レイシア。職業は何でもやってところかな」