闇市が開催されるのは碧月の1日から10日にかけて。
そしてその場所は、砂漠西端の町、ワジュール。
これは、楽がストレシア城で得た数少ない情報の中の一つである。
今が蒼月の35日であるから、残された時間はあと20日前後。
闇市の開催中にはなんとかワジュールに辿り着くことができるだろう。
一昨日、オアシスを出てからずっと歩き通しで、夜にはテントを張って野宿をしている。
照りつける日射しは一向に弱まらず、二人の体力をどんどん削っていった。
一昨日よりも昨日、昨日よりも今日の方が歩くペースが落ちている。
オアシスも見つからず、飲み水も残り少なくなっていた。
それでも今は進むことしかできない。
二人はただひたすら歩いた。
しかし、その様子は前とは随分違っている。
エルファと出会い、ストレシア城を目指して歩いていたときは始終無言だった二人も、ようやく少しずつだが話すようになった。
内容はたあいもないものだったが、話しながら歩いていると、時たま笑みもこぼれる。
和やかな雰囲気で旅は続いた。
が、点々と続く二人の足跡を遠くからつけている者があった。
額に赤い布を巻いた5,6人の男達である。
いかにも砂漠の男といった出で立ちで、肌はこんがり焼けており、その手には小型の剣、弓、そして、杖のような者を持っている者もいた。
獲物を見つめる狩人のように楽達の様子をうかがい、砂漠であるにもかかわらず、足音をひそめるようにしてゆっくりと、だが、確実に二人に近づき始めていた。
夜になり、オアシスも見つからず、また砂漠で野宿になった。
魔法が使えないため、火をおこすのには火打ち石と少量の火薬を使う。
町で買うと、一袋500ラージはする火薬だが、ザブルの小屋に火薬樽があったので、そこからたっぷりと分けてもらっていたのだった。
カチカチと石が鳴り、その火花が黒い粉の上に飛ぶ。
辺りが十分に暖まった頃、二人でテントを張り始めた。
テントと言っても、持ち歩けるほどの物なので、素材は薄い布。
そして、骨組みもそれほど丈夫ではなく、強風が吹けばたちまち飛んでいってしまうような代物である。
しかし、そんなテントでも、砂漠を旅するのには必需品だ。
砂漠の冷たい風に吹かれて一夜を越すことなど到底出来ない
昼間との温度差はかなりのもので、油断しているとすぐに体調を崩すおそれがある。
砂漠の真ん中で体をこわし、しかも十分な薬もなく、治癒魔法もなかったら、どうすることもできない。
一人旅であったなら、それは死を意味するものでもあるのだ。
二人はテントを張り終えて軽く食事をとり、しばらくの間、火に当たっていた。
「これから20日くらいは歩き通しです。
飲み水も少なくなってきましたので、明日は先へ進むことよりも水を探す事を考えましょう」
楽がそう言うと、エルファがうなずいた。
「そうだね。
それじゃぁ、明日は僕が目を凝らしてオアシスか何かを探すよ。
飲み水がないと大変だしね。
はぁ、それにしてもあと20日も歩くのかぁ……」
ため息混じりにエルファが言う。
「それでは、明日は宜しくお願いします」
「まかせてよ」
短い会話の後、楽はテントに入った。
エルファはそれを見届けてから鞄からごそごそと日記を取りだし、素早くペンを走らせた。
「よし、これでいいや。僕ももう寝よう」
そう思って顔を上げた瞬間、後ろからものすごい力で口を押さえつけられた。
「! 〜〜〜!! 〜〜〜!!」
言葉にならない声を発しながら、バタバタと手足を動かしてもがく。
しかし、小柄なエルファが暴れても後ろの男に勝てるはずはなかった。
その男が、エルファを抑えているのとは違う方の腕を上に上げると、焚き火の赤い光に照らされて、次々と男達が闇から現れる。
右から左へ目を滑らすと、4人の男が見えた。
一人は杖のようなものを持ち、あとの3人はむき出しの剣を持っている。
そして、男達の額には一様に赤い布が巻かれていた。