ファンタジア

ウェン4

 旅立ちから一週間が過ぎた。

 ウェンは今ワジュールにいた。
 受けた仕事は、『闇市での依頼人と出展物の護衛』。
 殺しは嫌だといったウェンの希望がなるべくいかされた依頼。
 しかしこの依頼もまったく血が流れないとは限らない。
 闇市とは、その名のごとく『闇世界の市場』。
 だから自分のような護衛をつける者もいる。
 血は覚悟しなくてはならない……

 依頼人はわりと善い人であった。
 名はメルディス。
 市の経験はまだ浅く、武術や魔法は心得ていないので人を雇わねばならないそうだ。
 自分の他に、もう2人の。
 ひとりはプリーストのハイラヴァ。
 直属の者らしく、防御・回復系の魔法を主に使う女。
 もう1人はビーストマスターのサダインという男。
 移動に最適なフェアミングという巨大な鳥を従わせている。
 この鳥に乗ってきたおかげで彼等は一週間という時間でアスリースの南端からワジュールまで渡れたのだ。
 また闇市の常連らしく、情報案内人として雇われたようだ。
 腕はそれなりに立つようだが、今一つ自分の力を出し切れずにいるらしい。
 前回まではもう1人いたそうだが、今回はどうにも連絡がとれず急遽ウェンを雇ったらしい。
 依頼料も丁度良い額だったので、ウェンはこの依頼を受けたのだ。

「貴方、竜人ね?」
「!」
 突然の問いに、ウェンは虚をつかれた。
 問いはハイラヴァから向けられた。
 まわりには……取りあえず誰もいない。
 何故わかったのだろう?
「……そうだけど?」
「やっぱりね。まだ生き残ってたなんて」
「……なんでわかった?」
「……昔、知り合いがいたの。
 貴方と同じ、深緑の髪と緋色の眼の知り合いが」
 過去形?
「はぁ……」
「コレ、あげるわ」
 ハイラヴァが銀色に光るものを差し出す。
「何……ですか? これ……」
「カフスよ。竜人族は気が高ぶると、その生まれ持つ闘争心が目覚めて自我を失うみたいだから。
 それしてればたぶんそんなことはおこらないはずよ」
「いいんですか?」
「仕事中に暴走されるよりいくらかマシだから」
 それだけいってハイラヴァは行ってしまった。
 ウェンは、カフスを右耳にかけてその後を追った。

 これから10日間、ウェンにとってはじめての『忍びとしての仕事』が始まる。

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