旅立ちから一週間が過ぎた。
ウェンは今ワジュールにいた。
受けた仕事は、『闇市での依頼人と出展物の護衛』。
殺しは嫌だといったウェンの希望がなるべくいかされた依頼。
しかしこの依頼もまったく血が流れないとは限らない。
闇市とは、その名のごとく『闇世界の市場』。
だから自分のような護衛をつける者もいる。
血は覚悟しなくてはならない……
依頼人はわりと善い人であった。
名はメルディス。
市の経験はまだ浅く、武術や魔法は心得ていないので人を雇わねばならないそうだ。
自分の他に、もう2人の。
ひとりはプリーストのハイラヴァ。
直属の者らしく、防御・回復系の魔法を主に使う女。
もう1人はビーストマスターのサダインという男。
移動に最適なフェアミングという巨大な鳥を従わせている。
この鳥に乗ってきたおかげで彼等は一週間という時間でアスリースの南端からワジュールまで渡れたのだ。
また闇市の常連らしく、情報案内人として雇われたようだ。
腕はそれなりに立つようだが、今一つ自分の力を出し切れずにいるらしい。
前回まではもう1人いたそうだが、今回はどうにも連絡がとれず急遽ウェンを雇ったらしい。
依頼料も丁度良い額だったので、ウェンはこの依頼を受けたのだ。
「貴方、竜人ね?」
「!」
突然の問いに、ウェンは虚をつかれた。
問いはハイラヴァから向けられた。
まわりには……取りあえず誰もいない。
何故わかったのだろう?
「……そうだけど?」
「やっぱりね。まだ生き残ってたなんて」
「……なんでわかった?」
「……昔、知り合いがいたの。
貴方と同じ、深緑の髪と緋色の眼の知り合いが」
過去形?
「はぁ……」
「コレ、あげるわ」
ハイラヴァが銀色に光るものを差し出す。
「何……ですか? これ……」
「カフスよ。竜人族は気が高ぶると、その生まれ持つ闘争心が目覚めて自我を失うみたいだから。
それしてればたぶんそんなことはおこらないはずよ」
「いいんですか?」
「仕事中に暴走されるよりいくらかマシだから」
それだけいってハイラヴァは行ってしまった。
ウェンは、カフスを右耳にかけてその後を追った。
これから10日間、ウェンにとってはじめての『忍びとしての仕事』が始まる。