「……ホントに雨になっちゃったなぁ……」
間一髪の所で古小屋に滑り込んだウェン。
「仕方ないから今日はここに泊まろう」
電気も水も通っていない、今にも壊れてしまいそうな古小屋。
ところどころ天井に穴があいていて、ぽつりぽつりと雨漏りをしている。
部屋にはベッドはおろか布団すらなかった。
遠い昔の主人が全て持っていったのだろう。
「さて……と」
背中に背負っていた袋を下ろし、中から気の打竹と蝋燭をとりだし、打竹の蓋をあけて蝋燭に火を灯してまた占める。
打竹は懐にしまって、かわりに地図を取り出す。
「今はこのへんだから……」
指で現在地をさしてみる。
宗奉の村からほんのわずか北に動いただけ。
アスリースまでまだまだ遠い。
「あ、でもその前にお金作んなきゃ。
さすがに毎晩野宿はツラいしなぁ」
確か近くにレアルタという村があったはず。
村にたびたび来ていた依頼者のひとりがそこにいた。
きっとそこには宗奉の村の印があるだろう。
村は、アスリースとテーヴァの国のいくつかの酒場に関係者しか知らない印をつけてもらい、その店を通して依頼を受ける。
宗奉の忍は迅速かつ的確に仕事をこなすので、信頼度は確かなものである。
しかし頼まれればなんでもするとは限らない。
店の主人に認められた者にだけ、忠実に働く。
だから村は世程信頼している店にしか頼まない。
店もそれは承知している。
「何か仕事くれるかもな」
レアルタならウェンの足なら一日でつく。
通常の竜人には不可能だが、村の者ならそれは十分可能となる。
「……よし! まずはレアルタにしよう!」
かくしてウェンの旅立ちの日は終わる。
翌朝、日の出前にウェンは小屋を去り、ラージヴァル一大きな国、アスリースへと足を踏み込んだ。