村周辺で、最も静かな場所。
その中央に、もう何百年も生きた樹がある。
宗奉の村の御神木、『ズイの大樹』。
村が生まれた時、すでに五百年は生きてきた。
今もなおその力は衰えず、絶えず村を守り続けている。
村を後にした者は、必ずズイの大樹に別れを告げる。
誰に言われるでもなく、己の意志で。
『よく来たね、ウェン』
樹から声が響き、幹に顔が浮かぶ。
樹の精霊である。
「ズイ様」
利き腕を胸元にそえ、逆のひざを地につける。
これが宗奉の村の敬礼。
『立ちなさい、ウェン。おめでとう。
やはりお前は天性の才能が備わっていたんだねぇ』
誇らし気に、樹が笑う。
「お誉め頂き、光栄でございます」
『そう固くなるな。お前は一人前として認められたのだ。
そうだね……威厳と、自信と、誇り。
その三つを、しっかりと己に持ちなさい』
「……はい」
どうも自分はそれが苦手らしい。
ずっと父と一緒に修行を行ってきた。
父は、そのすべてを兼ねそろえていた。
自分の何十倍もあるだろう獲物を、確実に術をくり出して倒す。
自分はそれを真似て、必死でくりだしてきた。
『さて、お前はどの方角へ進む?
その道しるべをくだしてあげよう』
「ん……と、まだはっきりとは決まってないんです。
この旅の意図は分かってるけど、どう探すかがまだ……」
『ふむ……じゃあ大陸沿いに歩めばよい。
簡単な地図をあげよう。まずはアスリースだね』
「アスリース……」
‘そのほとんどが森に囲まれ、強大な魔力を誇る国。’
それが書物で学んだ『アスリース』。
『あそこならきっとなにか得るものがあるはずだ』
地図を受け取る。木の皮に、木炭で描かれた地図。
点々と赤い色で城や街、森や泉がしるさせていた。
それを紐で束ねて袋に入れる。
『さぁ、日の暮れぬ内にふもとまで降りた方が良い。
今宵は雨だ。ふもとには古い小屋がある。
気をつけてお行き』
「はい!」
力強く返事を返す。
そして、ウェンはふもとを目指して走り出した。
ウェンがふもとの古小屋についた矢先、雨が降り出した。
力強く、ただ強く