ファンタジア

ウェン2

 村周辺で、最も静かな場所。
 その中央に、もう何百年も生きた樹がある。
 宗奉の村の御神木、『ズイの大樹』。
 村が生まれた時、すでに五百年は生きてきた。
 今もなおその力は衰えず、絶えず村を守り続けている。
 村を後にした者は、必ずズイの大樹に別れを告げる。
 誰に言われるでもなく、己の意志で。

『よく来たね、ウェン』
 樹から声が響き、幹に顔が浮かぶ。
 樹の精霊である。
「ズイ様」
 利き腕を胸元にそえ、逆のひざを地につける。
 これが宗奉の村の敬礼。
『立ちなさい、ウェン。おめでとう。
 やはりお前は天性の才能が備わっていたんだねぇ』
 誇らし気に、樹が笑う。
「お誉め頂き、光栄でございます」
『そう固くなるな。お前は一人前として認められたのだ。
 そうだね……威厳と、自信と、誇り。
 その三つを、しっかりと己に持ちなさい』
「……はい」
 どうも自分はそれが苦手らしい。
 ずっと父と一緒に修行を行ってきた。
 父は、そのすべてを兼ねそろえていた。
 自分の何十倍もあるだろう獲物を、確実に術をくり出して倒す。
 自分はそれを真似て、必死でくりだしてきた。
『さて、お前はどの方角へ進む?
 その道しるべをくだしてあげよう』
「ん……と、まだはっきりとは決まってないんです。
 この旅の意図は分かってるけど、どう探すかがまだ……」
『ふむ……じゃあ大陸沿いに歩めばよい。
 簡単な地図をあげよう。まずはアスリースだね』
「アスリース……」
‘そのほとんどが森に囲まれ、強大な魔力を誇る国。’
 それが書物で学んだ『アスリース』。
『あそこならきっとなにか得るものがあるはずだ』
 地図を受け取る。木の皮に、木炭で描かれた地図。
 点々と赤い色で城や街、森や泉がしるさせていた。
 それを紐で束ねて袋に入れる。
『さぁ、日の暮れぬ内にふもとまで降りた方が良い。
 今宵は雨だ。ふもとには古い小屋がある。
 気をつけてお行き』
「はい!」
 力強く返事を返す。
 そして、ウェンはふもとを目指して走り出した。

 ウェンがふもとの古小屋についた矢先、雨が降り出した。
 力強く、ただ強く

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