テーヴァの山の奥深くに、村が存在する。
きっとほとんどの者はこの村の存在にすら気付いていない。
地図にすら存在しないこの小さな集落は、いくつかの種族が寄り添って生まれた村である。
世間に突き放された者。
無実の罪を背負わされた者。
住処を壊された者。
肉親を失った者。
誰一人、悪は存在しない。
助け合いによって生まれた、小さな村。
それがこの村の始まり。
それから二百年。
今は忍びの村として一部世界に名を馳せている。
外の者は、いつしかこの村を宗奉と呼び、山の精霊を通して村に依頼をするものも出てきた。
この村は、世間一般にはもう滅びたと言われている竜人が全体の三分の一もしめている。
深い山奥に住むことによって翼は退化したものの、竜に変化する体質はかわらぬまま、彼らは生き延びてきた。
少年の名は、ウェン。
竜人の子として生まれ、忍びになるために育てられた。
彼には才能があった。
通常なら30年かかる修行内容を、わずか16年でウェンは修得してしまった。
腕力こそ欠けてはいたが、その素早さと賢さは村の誰にもひけはとらなかった。
今日、ウェンは『儀式』を受けた。
『旅立ちの儀』と呼ばれるこの儀式は、この村で最も大切とされるものである。
今まで山から一歩も出ることを許されなかった子供が、正式に世界を見ることを許される儀式。
この儀式を受けたものには、避けられない『試練』が待ち受けている。
村を後にし、自分が学ぶべき『何か』を見つけ、そして村に戻ってくること。
その『何か』を見つけるまで、村に戻ることは許されない。
最も重要で、最も過酷な『試練』。
ウェンは今日、その『試練』への第一歩を踏んだのだ。