事は幾らか楽になった。
俺たちが町を出るという話を耳に入れた町長が、馬車を用意してくれたのだ。というか、かなりそうなるように仕組んだわけだが、あまり時間もなさそうなので悪いがこうするしかなかった。なんといっても、目的地アルサロサまでは直線距離でならニ・三日程度の距離なのだが、そううまい事はいかない。草原とはいえ、未開の地は多い。全てが歩けるとは限らないのだ。
という事で用意された馬車は立派な馬車だった。馬二匹、六人乗り、飾りは地味だがしっかりしたものだった。その代わりといっては、同乗者が二人いて彼らをそれぞれの目的地に送り届けながらという事になった。俺たち、特にルンドには、彼らの目的地はアルサロサまでのルートの途中にあり、特に時間はかからないのだということで承諾を得た。
こうして、俺たちはこの町を発った。
俺は、訳のわからないけど取り敢えず「おめでたい」宴会に出たかったなあ、と後ろ髪を引かれながらの出発だった。
ところで何故、俺がルンド共に行くことになったのか。それは、単なる俺の気まぐれ、でもあるし、あのアルサロサは俺にとってちょっと思い出深い町だったからだ。
馬車はあまり良いとないえない道を、結構な速さで進む。予定通りに行けばきっと、一日程度で行き着ける。
と、ここで余談である。
馬車ここを離れてからほんの少しの間を置いて、町にキャラバンの一団が訪れる。その主は、この町で起こった事を聞いて、卒倒してしまった。何でも彼は、町人の「何処からか来た男」が「一本の剣」を手に大立ち回りを演じて盗賊たちを一掃しどこかへ去った、というという話にのみ反応していたという。
彼の不幸が、何も知らない町人に話を聞いた事、そして、その男が主の思い浮かべた男とは全く違う男である事に気が付かなかった事にあるのは、言うまでもない。こうして、運命の女神のちょっとした一人遊びは、誰にもその全体を見せることなく終わりを告げた。
そんな頃、馬車の中にもひとつの不幸が訪れていた。
馬車の同乗者の一人に、旅商人がいた。旅商人、特に独り者のそれの中には、異常なほど噂好きの者がいる。こいつがそれだった。始めのうちは、取り止めもない噂話で場を盛り上げていたのだ。しかし、ほんのちょっとした気の緩みで俺は、そいつの口から「その言葉」を発されることを許してしまった。その「禁句」を知っているのは俺だけだったからずいぶんと気に掛けていたのだが、油断していた。それは唐突に始まった。
「それで、知ってるかね。ラジアハンドのビショップ様の事だよ。これは聞いたことがあるだろう? 今や有名な話だ。それで、最新の情報が入ったんだ。
何でもなあ、そのビショップ様がアルサロサにいたらしいのだが、どこぞのお国とお国のいさかいに巻き込まれて誘拐されちまったそうなんだ。それでな、―――」
不幸な男がいるものだ。
無論それは噂で、本当の事であるはずなかい。きっと、何か別の噂ともごっちゃになってしまっていた事だろう。しかし、彼にとっては、単なる噂で済むような話ではなかった。そして、予想通りの事が起こった。いや、予想よりは幾分軽かった。
「 それいじょう、いうな 」
ルンドの導火線に火がついた。一瞬で洒落にならないプレッシャーが車内を押しつぶした。沈黙すら、消し去った。男は、自分のしでかした事への重大さを気付くことなく、気を失った。
それ以来、俺でもどうしようもない事態は続いた。
ちょうど半日経った頃、同乗者の生き残ったほうは、もう一人を連れて転げ落ちるようにして馬車を去った。そしてもう半日経った頃、このアルサロサに到着した。
俺は馬車を降りてやっと、これがほんの一日の旅だった事を理解した。俺にとっての、一月以上とも感じられる長旅になった。