ファンタジア

セザール3

「おい、いたか」「いねーな」
 目と鼻の先で話している奴がいる。
「本当にそんな奴が入り込んだのか?」「見張りの若いもんの話だが、まず本当だろう」
 おい、どうでもいいから早くあっち行け! ここにはいないって!
「もう少しこのあたりを探すぞ、隠れてるかもしれん」「そうだな」
 げげ、そ、それだけはやめてくれ。 
「おーい!」
 また新手か。
「どうした」「向こうで暴動が起きてる、手伝ってくれ」「ちっ、黙ってりゃ良いものを」
 お、やった。全員あっちへ行った。今のうちだな。
そろそろと動き出す一つの樽。突然足が生え、体につながり、人になった。
樽を捨て、周りを抜け目無く見渡す。人の気配は無いが、遠くで人の叫ぶ声が聞こえて来る。
「方向は逆だな。よし、とりあえず宿に行こう」
建物の壁沿いに歩き出した。

 町に逃げ込んだのは大変なミスだった。
 考えてもみれば、あんなに町の近くに三人だけ、盗賊がいるなんておかし過ぎることだ。
 あんまり考えたくないことだが、こういうことを予測するべきだった。
『町が、襲われている』
 あんまり静かだったんですぐには気が付かなかったが、所々道を彩る赤いものと、あの物騒な方々を見てやっと、はっとした。
 宿の裏に滑り込む。
 ちょうど頭の上に窓がある。きっと、階段下の窓だ。
 ここからなら宿の一階が見渡せる。
 そろりと中をうかがう。
 荒らされてはいる。しかし、思っていたほどではない。
 人はいない。きっとどこかにまとめて閉じ込めているのだ。
 殺されていることは、きっと無い。血痕が少ない。
 奴らは見えない。中に入れるか。
 慎重に表へ回る。相変わらず通りに人はいない。遠くの騒ぎは未だ続いているようだ。
 隙を見て逃げるべきか、それとも、憲兵か最強の戦士さんが偶然通り掛るのを待つか。
 …とりあえず中に入るか。落ち着いた後で考えよう。

 一階は、二年ぐらい人が住まなくなればこんなもんになるだろう。
 心配された二階の部屋は、ドアが壊されている様子はない。
 しかし、残していた荷物が心配だ。
 部屋の前に立つ。中に人のいる気配は無い。
 ギイイイイィ
 こんな気味の悪い音を出すのは、この部屋のドアの持ち味だ。
 部屋の中には、誰もいない。お約束通り、荷物の中身が散乱している。
 こんなに散らかるまで金目のものを探したのか、全く金目のものが無くてイラついて散らかしたのか、どちらとも言い難い。
 それらをだいたい寄せ集める。
「よかった、大事なものは残ってる」

 このとき、俺は油断していた。
 後ろに、人影が迫っていたのに気が付かなかったのだ。

 ポン!

 肩が叩かれた。

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