ファンタジア

セザール14

「!!!」
 俺はまたあの夢を見て目を覚ました。
 いつもの、全く内容を覚えていない悪夢だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 もう、三度目じゃねーか。くそっ。
 俺はつばを飲もうとして、口がからからに乾いている事に気が付いた。
 ベッドからぐだぐだと起き出して、窓から朝の町を眺めた。
「おい、セザール。起きたんなら早く来い。飯が冷えるぞ」
 部屋のドアの外から低い声がそう言った。
「ああ、すぐ行くよ」
 俺は、ちょっとばかりしゃがれた声でそう返した。

 フォルクスたちの見送りから早くも三日が経ち、俺は既にリルクリルへと戻っていた。いろいろな諸事情により――ほとんど金のことだが――俺はハワードさんの家に泊めてもらっていた。
「どうした、冴えん顔しとるぞ」
 テーブルには良い匂いのする皿が何枚に並んでいて、ハワードさんは既に食べ始めている。
「最近、変な夢が多くて。毎回同じ夢を見てる気がするんだけど、どうも内容が思い出せなくて」
「セザール、お前変な事件に巻き込まれてたって言ってたじゃろ。そのせいじゃろう」
 俺は席に着く前に、水瓶から一杯の水を汲んで飲んだ。
「そうかなあ」
「そうじゃよ」
 白い口ひげに隠れた口がむぐむぐと動く。
「そういやあ、あの白い青年は本当に行っちまったのかい?」
 白い青年? フォルクスのことを言っているのだろうか。
「あ、ああ。行ったよ。今はきっと、果てしなくつまらん海に厭き厭きしてる頃だと思うよ」
「うーむ。もうちょっといてくれればのう、いろいろできたんじゃが」
「そうだね」
 俺の寝起きのぼんやり頭はその言葉をするっと聞き流したが、良く考えてみるとその「いろいろ」にひどく恐ろしいものを感じた。
「ハワードさん、そーゆーんはやめてください。あいつキレたら怖いですよ」
「はっはっは。だがなセザール、世界には少ないとは言っても白子で苦しんでいる子供はいるのだよ」
 俺はそう言うハワードさんの遠くを見るような目に、妙な説得力を感じた。
「薬飲まして地下に連れ込むんじゃった……」
 がくっ
「ハワードさん、そいつぁ犯罪です」
 それからちょっとだけ、俺がいなかった間の話をしながら朝食をとった。
「あ、ハワードさん」
 俺はある事を思い出し、皿を片付けているハワードさんに声をかけた。
「ん? なんじゃ」
 手を止め、ハワードさんは振り向く。
「師匠…先生は今どこに?」
「先生? …ああ、彼女か」
 ハワードさんはなぜか眉間にしわを寄せ、向こうを向いた。
「わからん」
 そのまま、片付けを再開しながら言った。
「え? また近くをぶらぶらしているんじゃないの」
「…わからん。ただ、しばらく前にちょっと遠くへ行くと言って出ていった。知り合いが亡くなったとか、言ってたの」
「知り合い? 先生に『まだ生きている』知り合いがいたんですね」
「あれだけ社交的な彼女のことだぞ。一声掛ければ数百人、って感じじゃろう」
「ははは、有り得る」
 そこでふいに、ハワードさん雰囲気が少し暗くなるのを感じた。
「一つ、気になる事があってのう」
「え?」
「彼女が出て行く前に手紙が一通届いたんじゃ。彼女、それにちょっと目を通してすぐに、燃やしてしまったんじゃ。彼女らしくなく、苛立っておった」
「……」

©ファンタジア