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リョウルク8

 リョウルクは都という所に来た経験が無かった。村を十五で出て最初の街で道場の世話になり、ずっとそのままで今日まで過ごしてきたのだ。仲間の男衆にはもちろん都を目指す血気盛んな若人もいたが、リョウルクにとって都はあくまでも「違う街」であり、それほど村や町と変わるまいと考えていた。
 そういう訳で、都に着いての第一声である。

「なんだ?」

 人がいた。数え切れないほどの人がいた。人間がいた。エルフがいた。獣人がいた。有翼人がいた。ドワーフがいた。リズマンがいた。異国人がいた。侍がいた。騎士武者がいた。物売りがいた。学人がいた。背の高いドワーフがいた。背の低いリズマンがいた。誰もがどれもが幾らともいえないほど、いた。
 都の門外の通行人である。都の人々ではない。都に入る人々だ。
「はぁぁ」
 周囲の圧倒的な喧騒に瞬時に掻き消される程度の溜め息をもらしつつ、リョウルクは外門をくぐり「数え切れないほどの人」の一部となった。煌びやかな外門とは対照的な内門をくぐると――

 人が見えた。大勢の、蠢く。


 数瞬と言えない間茫然として我に返り、ありとあらゆる人種種族の人々を苦労してかきわけリョウルクはまず鍛冶屋に行った。現実的な問題として長巻の状態が一本の大根さえ斬れぬ物なのだ。そして、アディンバルの鍛冶師として思い浮かぶのは当然として在村銘であった。
 その事は罪ではなかろう。
 少なくとも、あらゆる人と同じ思考経路をたどった筈だ。
 だが歓楽的にそのまま在村銘の鍛冶屋に向かったのは、いかにもな失敗であった。
 鍛冶屋自体はあっさりと見つけられた。良い目立ち方をしていたためだ。古風で巌徹としたテーヴァらしい風格漂う容貌の、名声の割にこじんまりとした家屋である。
掲げられた看板には「鍛冶所-在村」と小さく、しかし達筆で在る。
 リョウルクはそれだけ見て取ると、転回して武具店に向かった。
 多すぎたのだ。客が。
 その列は通りにまではみ出していた。
 入れる余地は、無い。

 リョウルクは考えが足りない事を悟った。

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