双刀解戒。
振り向き様の瞬時に分割式鞘を割り、双にして個なる宝刀を翻す。
双刀穿流−抜刀術。
刹那なる廻旋で勢いをつけ――その際に抱えていたタントルが弾き飛ばされたが今は仕方ない――右の宝刀、『帝(てい)』を桁並外れの膂力で叩きつける。剛であり麗である『帝』は“腕”を滑らかに切り裂き、骨を破砕する。
それは“掛かり”だ。
斬りつけ止まった『帝』を軸にして、跳ねる。宙に在りながらの円の動き。視認することが極めて困難な複雑複合的な体術の末に繰り出されるのは左の宝刀、『皇(おう)』。鋭であり重である『皇』が“首”を断つ。人の物と比べるならば三倍ほどもある頚骨をも獰猛に斬断し止めとする――
「――んだそりゃぁ!?」
『帝』で破斬した“腕”が動く。頚骨を、頚動脈も気管支も潰したというのに。首も神経も裁断したというのに!
“腕”の一撃。人ではない力の掌底とも拳ともつかぬ未熟な力のみの一撃は、全身を震わせあたかも人形のようにテラ=ドラを吹き飛ばした。防御の仕様がない、鍛練が馬鹿馬鹿しくなるほどのどうしようもない力の攻撃。辛うじて『帝』は抜き去ったが『皇』は“首”に残ってしまった。双刀一剣の双刀穿流にとっては度し難いことである。らしくない。
“敵”との間合いが開いた。
そのおかげで“敵”を改めて見ることが出来る。
見た事はあった。それどころか倒した――殺した事さえあった。
硬き肉に鎧われた巨躯を誇る――オーガ。アカデミーの認識に従うならば下位魔獣属巨鬼科。旅を糧とする者達にとっては意味のない正式名称はコモン・レッサー・オーガとなる。テラ=ドラにしてみれば、今までの敵から判断することには強敵とは言えない。街道には現れないが、少し入り組んだ森や忘れ去られた遺跡にでは珍しくもない、だが民衆にとっては恐怖と災害となり得る――まぁ普通の魔獣とも言えなくもない魔獣である。
見た目はそうだったのだ。
首を落とされて動くオーガなどはテラ=ドラの知るオーガではない。
「鬼? ずぶドワーフが言ってたのはこいつか? ――んなわけないか。こんなのに自然が左右されやしないな」
『帝』を半身で構え、呼気を吐く。
穿流。
双刀ならざるとも闘う術は幾らでもある。穿流開祖『オン』の教えは身に沁みている。
と、気配。
大きな、獣のような押し隠した――猟兵に近い気配。それがテラ=ドラの本能に警鐘を鳴らす。
首無きオーガは先の一撃の姿勢のまま動かない。
援護?
味方? 姐さん達?
敵? 第三者? あの槍術衆を駆逐して討伐隊をも殺戮した異化生か?
麓に残してきた甲殻馬か?
判らない事が多すぎる。危険な兆候だ。
「――っ」
後退。飛び退って間合いをさらに開ける。
テラ=ドラは猛進の剣豪であったが、決して猪突なだけの愚者ではなかった。
考えて闘う。穿流の教えを理解する数少ない若人である。故に剣術師として名を馳せる事が出来る。
そして――
その有望なる若人に失せた同朋の事までも期待するのは欲しすぎと言うべきものな
のであろう。