浅い眠りにつき、すぐにやたらと不機嫌なタントルに蹴り起こされてリョウルクは昌をつついて、弱々しく辺りを照らす火へ近づいた。一向に動かぬ四肢をこすり合わせながら、何とか奇槍を地に立て小型の椅子に腰を下ろす。緩んだ篭手と具足は今では直しようが無い。
火を挟んでの対側に、後から起きた昌が既に座って枯れ枝をくべている。
紅に染まった彼がためらいながらも口を開いた。
「…………君は……何でこの旅に参加したんだい……?」
獣人にしては高く、若い声。ほとんど視界の利かない今なら、彼が小柄なハーフエルフだと言われても信じられるだろう。
「何で……か。どういう意味で?」
リョウルクは反対にリズマンにしては低い、人間じみた声。それで返す。
「……今までに会ったことは無かった……よね? 漸さんの知己なんだよね……?」
「知己、と言うほどでもないな。――この前会ったばかり。姐さんも、あの変なドワーフも」
火が爆ぜ、辺りが瞬き(まばたき)する。
「……僕はね――漸さんとは昔からの付き合いなんだ。……親が死んだ時に義兄さんが……義理の兄さんが漸さんの奥様方――凛さんの両親を頼ったんだ。……それが縁でね……」
「…………複雑…………」
武僧の獣人は人の拳大の木の実を懐から取り出し、火の側に置いた。
「……凛さんの両親が義兄さんの伯父さんの武術の師だったらしくてね。……それが縁で僕は漸さんと会えた」
「…………他人…………」
「……漸さんは強い。何でも夢中になってやりこむんだ。冒険も、武術も、刀鍛冶も。子供のころは何一つかなうものは無かった。いや……今も、だね……」
「…………体格…………」
昌は木の実の頃合を見て、取る。その一つをリョウルクに投げて寄越した。
「コウルの実……体が温まるよ……」
無造作にその殻を握り砕いて身を食む獣人。それにならいリョウルクもやってみるが、強靭な爪をもってしても全くたわみもしない。諦めて歯で割る。
辛味のある、温まった実が口内に広がった。
「――彼らは?」
実を飲み下し、しばしの沈黙の後リョウルクはそう切り出した。
真っ直ぐに寝ている瀞。
翼があるためうつ伏せの絣。
天幕からはみ出していて無闇に静かなタントル。
どんな姿勢なのか寝袋に顔まで入れているサラフィティス。
「……姐さんは慟さん――ドワーフの武具店の主人の知り合いだった。すぐに誰とでも打ち解ける人だね……。栢凪(かやなぎ)さんは母親が漸さんの武の友人だったとか……」
「母親が、ね」
「……スカイさん、タントル=スカイさんは漸さんの弟子というか付き人みたいな人。よく動く人だよ……。ストラフティートさんは……よく分からない。漸さんが旅してた時に会ったらしいけど……何時の間にかいた、かな? ……慟さんの紹介だったとか聞いたような気もする」
エルフを包んだ寝袋が奇怪に蠢(うごめ)く。寝返りかどうか知る由もない。
「変な人だな、サラ……サラテフィスィか?」
「……サラフィティス。エルフだからかな? でも、想像とは違うよね……。森の民とかとは」
昌は薄く笑った。
「ストラフティートさんも……自分を持ってて良いと思う。エルフなのに……エルフにとらわれてないよね。――僕とは違う」
「…………個性的だが…………」
獣人には聞こえない。
「僕は流されてばかりでね……武僧になったのも義兄さんの奨(すす)めだし、旅に出たのもアディンバルに漸さんが居なくなったから……。誰かの真似で、誰かの影響さ……、薬草だって婆様の教え通りで……」
リョウルクは無言。奇槍に手を伸ばし、温まった指でこびり付いた泥を拭う。
風が無い故に静かに燃える焔を見つめて、聴く。
「……旅をしている時だって、何の目的も無かった。……教えを広めようなんて考えもしなかったし、世界を見たい、とも思わなかった。ただ、旅をしたかった、旅に出たかった。その先が――無かった」
水気の残っていた枝が炎に爆ぜ、間を作る。
頭部の突起を撫でて姿勢を正す。尾を返す。
「……僕は何をしたいんだろう……結局」
大柄の――獣人としても巨体を誇る昌は、仲間の有翼人の胴ほどもある両の腕を組んだ。
炎に色取られたその顔は、無。
苦悩故に、か?
「あー……えーと、今から考えればいいんじゃ――とか」
昌はそのリョウルク言葉に大きく頭(かぶり)を振った。
「ただ流されるだけ――それが、僕。……それ以上には、なれない……」
自嘲。
長年考え続けられてきた彼の自我の問題に、リョウルクは安易な解答を出せるはずもなかった。