ファンタジア

リョウルク19

「よし。リョウルク、何が出来る?」
 漸の行動は素早かった。棚から立ち上がって長巻に変わるものを物色し始める。
「長巻――長槍系なら大丈夫ですよ。ただ、どこに行くか分からないのなら、長すぎても不利です。あ、あと弓」
 リョウルクも動く。何がどこにあるか全く読めずうろうろするだけだが。「やはり、な。侍衆を目指していたのではないのだろう?」
 この時代――大陸暦九百八十年では刀と弓は既に侍の必修技能ではない。技術の専門化による個々の程度向上というのが政府庁の言であり、つまりは侍の武器は正々堂々で高貴たる刀のみでいい、といった言い訳である。長巻や弓は足軽衆の担当となる。
 かくして侍衆の程度は年々低下し、信用も仕事も減ることとなっている。
「両親が猟師だったもんで。侍になるつもりもありませんし。鉈(なた)も使えますよ。これも自分で」
 長衣の背部収納から九頭分の山犬の皮を取り出して見せる。
「はぁぁぁ。器用なもんだね、見かけによらず」
「まだなめしてないけど」 
 大仰に感心する瀞に皮を放る。太い糸でつながれた毛皮は広がりもせず彼女の手元に納まる。
「リョウルク。弓篭手(ゆみごて)だ」
 漸から同じように異国風の篭手が飛んでくる。
 灰色。テーヴァの岩の色をしたリズマン用の篭手だ。鋳造作りではなく重装甲性。薄く弾力のある鉄板を幾重にも重ねて型をつけた高級品である。
 この店のどこにこんな物があったというのか。
 はめてみる。
 曲面の装甲板を右腕の当てて、皮ひもを引きぴたりと鱗に密着させたところで堅くとめる。ちょうど装甲板は腕を一周したところで途切れた。短くも長くもない。完璧である。動きに支障もない。左も同様。
 自分のために造られたような篭手である。
「ぴったりですね。完璧」
「で、次だ」
 今度は慟から具足が飛んできた。
 やはり灰色の異国風の物。おそらく篭手と一組だったのだろう。リズマン用のつま先の割れた大型の具足である。
 一組であったという事は篭手と同じ持ち主の物だってという事であり、当然合う。合致とも言えるほど身の一部のように張りついた。
「凄いな。俺にあつらえたような物ですよ。これ」
「それに近い」
「?」
「昔の話だ」
 つぶやき慟は異国鎧の裏から大弓を取り上げた。
 非対称型の合成弓。並みの人間では引けそうにもないほど巨身で弦も太い。ドワーフでは持ち運びに難があるであろう、獣人かリズマン、もしくは巨躯の人間用か。
 慟はそれを軽々と投げてよこした。雑然とした店内で何一つにもあたらずリョウルクの手に飛び込んだ。
「重いな」
 重量の事ではない。弦の重さだ。力一杯引いてやっとねらいの定位置まで持って来れる。重ね射ちも移動射ちも今の腕力では到底無理である。
「使ってたら自然に力つくさ。――親父さんよ。なに探してんだい?」
 漸はわずかに露出した壁にかけてある長槍類を探索している。棚の上に立って真剣に見ているのは異国の長槍である。
「さっき言ったろう? 武具に決まってる。リョウルクよ。どの程度の長さならば容認できる?」
「刀――人間の太刀、胴太貫(どうたぬき‐太い騎乗刀)よりも少し重いくらいなら――」
「何で親父さんが長巻を打ち直さないんだい?」
 瀞は静かに言った。
「? 何で怒っている? 私はリョウルクを認めていない訳ではないぞ。逆だ。多いに認めている」
 特殊な形状の――テーヴァ風でも異国風でもない前衛的な色形をした槍らしき物を放り、
「私の性分くらい解っているだろう。あの長巻は――」
 足元の長巻を指す。
「九百年前後の業物だ。出来も良い。そんな物を私が直すと時がかかり過ぎる。結局、バッカスから来る人々はこの街の血脈だからな。伝令有翼人もとうに港に着いているだろう。私としては直す時間が惜しい」
「何か後から理由つけてる気もするがね。ま、いいさね。納得してやるよ」
「おい、大女」
 どかりと指定席に座し、慟が言った。


「凛(りん)がおめでただ。打ってる暇など無い」

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