何が何だか全く見当もつかなかった。
自分よりも巨体である獣人の流浪人に襲い掛かった時、退く事を知らぬ野太刀を弾き返そうとしたその瞬間。
青い空を見ていた。
綺麗だった。
青天の霹靂。
その表現そのものの空だった。
もっとよく見ようとしていた。
身を乗り出した。
踏み固められた地面に激突した。
「ぐぅ」
うめきつつ素早く起き上がる。あの流浪人達の中に、こちらに気づかせない内に自分を倒せる者がいたとすると、今現在非常に危険な状態に相違無い。地に鼻面を着けている場合ではなかろう。
辛うじて手放さなかった鉾槍を左半身で構える。
相手は――
太刀を構えた獣人が眼を点にして立ち尽していた。逃げ出す姿勢そのままの人間が固まっていた。吹き飛ばされた有翼人が羽ばたいて逃れようとして凝固し落下した。
ディレクセェン=瀞がくしゃみした。
慟が腕を組み両目と鼻の穴を丸く膨らませた。
リョウルクはゆっくりと振り返ってみた。
始めに眼に入ったのは人物ではなかった。否。人物もいる。いるのだがそれ以上強烈に眼を引く存在があった。
刀。
そして鞘。
抜刀されてはいない。黒鞘に収められたままなのだが、それでもその刀は抑えきれぬ鋭さを匂わせる。鋭く気品のある完全という感のある芸術品。鞘と一体化して眠れる獅子のごとき風格と危うさを秘めたその刀は、持ち主と合致した力強さを備える。刀身の長さ、幅、柄の太さや握り、全てがその持ち主のために作られた一品だと主張している。
言うまでも無いだろう。
在村銘の刀である。
その主は――
――在村漸。
その人である。