ファンタジア

リョウルク15

「珂ぁぁぁ!!!!」
 黒衣のリズマンが咆哮(ほうこう)する。「大量の流浪人達」の輪が二歩ほど下がった。一様に同じ狼狽の表情を並べている。恐怖に達している者もいた。逃げ出す者もいた。無様に腰を抜かす者もいた。
 とにかく気圧されている。
「ほう」
 ディレクセェン=瀞は感嘆の息をついた。
 リズマン――名前は忘れた――が「大量の流浪人達」を一方的に押している。腕はそれ程の洗練された物では無いが、元の敏捷さと何かしら野生の匂いのする思い切りが御座敷剣法的な「大量の流浪人達」の技量を大きく上回っている。
「どうだ?」
「何勝ち誇ってんだい。先に会ったのはあたしさね」
 慟の声に言い返す。
 リズマンが「大量の流浪人達」を挑発し、出て来たドワーフの戦者を殴り飛ばしている。一方では尾で有翼人の槍使いを吹き飛ばしている。
「強くは無いがの……」
「素質の塊ってやつかね」
 三人組を鉾槍――確か二百年ほど前のラジアハンドの物だ――で薙ぎ飛ばしている。体格も力も違う上に気迫に雲泥の差がある。相手になるわけが無かった。
「心構えの問題だな。あやつは真剣に考えておる。少なくともな」
「へぇ。親父がンな事言うのかい? だったら考えて行動しな」
「駕ァァァァァァ!!!!」
 再び咆哮。それは、ほぼ物理的な衝撃波となり、既に戦意を喪失(そうしつ)している流浪人を追い散らす。巨体を具風(ぐふう)のごとく閃かせるリズマンは、手にした鉾槍の石突で幾人もの流浪人を叩き投げる。投げる、投げる、投げる。
 もはや勝負とは言えた物ではない。
 死の無い殺戮だ。
「なんかやばい事になっちゃいないかい?」
「むぅ……」
 二人の懸念はその声で断たれた。

「よ」

 リズマンが回っていた。

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