何故(なぜ)だろう。
何故、自分は今日始めて会ったドワーフに首根っこをつかまれ、今日着いたばかりのアディンバルの大通りに放り出されているのだろう。
何故、物々しく眼光を尖(とが)らせたいかつい流浪人に囲まれていたりするのだろう。
何故、彼らは揃いも揃って同じ服装に同じ装備なのだろう。
何故、彼ら以上に大勢の街の住人が自分を見ているのだろう。
何故、自分は見た事も無い、丁寧(ていねい)過ぎる彫りの入った鉾槍を持っているのだろう。
何故、ここまで自分を連れて来たドワーフは短い腕を組んで満足そうに微笑んでいるのだろう。
何故、その隣で少しばかり汚れた感のあるディレクセェン=瀞も笑っているのだろう。
リョウルクは考えを連ねた。
詰まる所、リョウルクの周囲を取り囲んでいる「大量の流浪人達」は、在村漸の鍛冶屋に並んでいた「大量の流浪人達」である。自分達を否定された叫び声に、一人の喧嘩っ早い獣人が慟を怒鳴りつけてきたのだ。
「大量の流浪人達」は全員が面子を重んじる流浪人だった。一人が行ったのなら自分が行かぬわけにはいくまい、という訳である。全員が。
それに対し慟はいきり立つ獣人に怒鳴り返し、リョウルクを掘り返して店の外、「大量の流浪人達」の中に連れ出した。放り出した。言い出した。
「主ら力のあると自信のある者どもがこやつに勝てるか!? 主らのような――棒切れの振り方一つ知らぬ坊が!」
大量の流浪人達は全員がいきり立った。が、彼らが作った円からは誰一人として出ない。
中には無論の事、真に修行を積み鍛錬を重ね流派に皆伝(かいでん)を受けた強者もいた。彼らはその強さ故に慟に気圧されていた。
だがやはりその他大勢の「大量の流浪人達」は、まともに修行などしてはいなかった。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
一人目は始めの獣人だった。
単調な唸り声を上げて単調に突進してくるそいつを身を開いて避け、おろそかな足元を尾で引っ掛ける。
獣人は勢いを殺さずに地面へと直行する。
鈍い音。
しかし、相手は獣人である。戦種は得物(えもの)がきちんとし過ぎた刀という事から侍なのだろう。体力に不自由しているとは思えない。
「がぁぁぁぁぁ!」
果たして獣人は左手一本だけを使って跳ね起きた。滅多やたらに刀を振りまわす――
リョウルクは二つの動作をした。
使う事になった鉾槍の石突で力点の定まらない刀を打ち付け、そのまま脚を払う。
獣人は刀を取り落とし今度は後頭部から倒れた。
悶絶。
二人目は人間だった。それ程も大きくない、丸という印象を持つ若人。それでいて太刀を片手に下げている。
「――!」
気合の言葉は無い。滑るようにして懐に飛びこんで来る様は、先ほどの獣人とは明らかに技能の差がある。
横殴りの斬撃。
紙一重で見切る。
太刀は泳がない。片手で完全に制御支配している。つまり隙が無い。
今度は右から左への払い。完璧な、斬。
リョウルクは無言でその太刀を打った。
完璧な斬り込みは、そこしかないといった単純な基本の型そのものの斬り込みでしかなかった。彼にはそれ以外の攻撃は出来ない。何も考えずにただ、修練だけをしていたのであろう個性も何も無い脆い剣。
案の定と言うか、強靭な膂力(りょりょく)で太刀を落としはしなかったものの身体が泳ぐ。そのままでは自分の足を斬りかねなかった為、リョウルクは親切にも彼を蹴飛ばしてやった。力一杯。
丸々とした若人は太刀を残して鞠(まり)のごとく飛んで行った。
「珂ぁぁぁ!!!!」
リョウルクは身を乗り出し、吼(ほ)えた。
何故だか腹が立っていた。