「これいい加減にせんかいこの噺屋娘が大体何だ人様が精魂混めて作りあげた理想形そのものの最高にして最強の武具店にけちをつけるとは!」
唐突だった。
野太いが枯れた声がささやかな店を揺るがす。青黒い液体質の物が入った瓶が戸棚の向こうに転げ落ちるのに戦々恐々しつつ、リョウルクは女性――ディレクセェン=瀞の背後を仰ぎ見た。
自分ほどもある刃。ぎらぎらと鈍く光っている。
「はぁ」
事態はリョウルクの、都に出てきたばかりのリズマンの許容範囲を超越していた。全く何が起こっているか判断つかないのでとりあえず、頷く。
「なんだい、親父様よ。あたしは真実を言ってんだよ。真実ってのは事実であって事実っちゅうもんは幾ら話したって良いもんなのさ。それにけち付けるってかい? 親父様よ」
瀞がまくしたてた。入り口付近に鎮座する異国式の鎧武者がごてごてとした鉾槍を取り落とす。
「事実ってのがくだらん戦の元になるってのをお前さんは知らんのか? あの凛禄昂も言っておろう? 戦なんて何の役にも立たんものよりもわしは人の機嫌を見てすごす方が良いってな」
瀞の向こうの巨大な刃もまくしたてた。鉾槍が倒れ例の真紅の狸像を斬りつける。
「あたしにゃ関係無いね。昂将軍が戦嫌いだろうと実は女人だろうとやった経歴にゃ何の関係も無いだろうが。あたしゃ断言するよ。この店は妖しい!」
瀞は大音声で言い放つと切れのある動きで刃に指を突きつけた。傷一つ無い狸像が転がり「羅阿磁婆瑠万歳」と大書された軍旗の柄にぶつかり止まる。
「あ、あ、あ、妖しい? 何を言うこの【鬼殺】は実戦的な価値ある武具を最高の目利きたるこのわしが集めてなぁ」
軍旗はゆぅらりと傾き、やがてその布の重みで加速した。
「この狸のどこが価値ある武具だって? 武具ってんならちゃんと槍刀を売りなさいな。こんな使い方も解らんような奇怪奇天烈なもん集めとらんでさぁ。――!」
旗は重量としては十二分に凶器であった。さらにその下には円形である狸があった。重心の崩れた軍旗の下部は横滑りし狸像にかかり、像が転がる。つまり旗のさらなる加速。
軍旗が瀞を襲った。
背後。完全に死角からの襲撃。
瀞は獣じみた反応で振り向きざまに脚撃した。重い軍旗が軽めに吹っ飛ぶ。
こっちに。
リョウルクは何故か旗に一撃されていた。