慟(どう)は生粋のテーヴァ人であり、年を経てして未だ衰えぬ肉体を誇るドワーフである。現役を退いた後は小さな店を出してはいるが、一向に軌道に乗った調子は無い。アディンバルでも五指に入る有名な商人ではあるのだが、それは商いとして有名なわけでは無い。
「――♪」
今も今とて慟は「商品」を仕入れて運搬中であった。粋な鼻歌混じりに肩に担ぐそれは、巨大、いや広大とでも言おうか、兎に角、ドワーフのゆうに三倍の丈はある鉞(まさかり)である。どう贔屓目に見ても樵(きこり)用では、ない。戦闘用としても誰があんな物を振り回せようか。
慟が著名なのは奇天烈な武具収集家としてであった。慟自身は商売用と言い張っているが、彼の店に購入を目的として入る客は既知未知問わず一人としていない。
理由は言わずともがな、であろう。
では、何故に彼の店はこの武具店の激戦地であるアディンバルで生き残っているのであろうか。
――アディンバル七不思議の一つである。
「何呆けてるんだい? 客人さんよ。あ。ところであんたこんないんちき屋さんに何の用があって来たんだい? まさか物入りって訳じゃ無かろうに。そしたらこんなけったいなとこ来るわけ無いよねぇ」
「そうだとしたら?」
「馬鹿にしたる」
「……してください」
「本気かい!? あんた正気かいこの店が真っ当な武具やにでも見えたって言うのかねそりゃあ大物だだってこんな店いつ潰れたっておかしくないちっこいせっまい悪趣味ぃの入りたくないお店の総元締めみたいな最低のおんぼろの…………後はえぇとね」
「えぇと。いいかな?」
「人様の話しは黙って聞くもんさね」
「じゃあ言う。あんたここの主?」
「……………………何寝ぼけた事言ってんだい。あたしが店を出すなら、こんなしみったれた街の魔境よりもね。そうさね。旅人でも現地人でも誰でも立ち寄れる酒場宿でも出すかね。ま、どうにしてもこんな店あたしんじゃないよ。失礼な」
「…………どうとも言わんけど。じゃ、あんた誰?」
「あぁ。言ってなかったかね。あたしの名は瀞(せい)。ディレクセェン=瀞(せい)さ。分かるとは思うけど混じりっ子(ハーフ)さね」
「いや……そういう意味じゃ……ま、いいけど。俺はリョウルク。じゃ、あんた何者?」
「? だからね、瀞って言ってんだろ? あのねぇ――」
「いやだから。この店の、何?」
「…………考えた事も無かったね。あたしは。…………うん。哀れな世間知らずの流浪人を助ける正義の徒ってのはどうかね?」
「何で聞くの……?」
「いやぁ。いいね。正義の徒。こりゃぁあたしにぴったりだ」
「……………………」
「こんな妖しいだけの店に入った流浪人を助けてんよ? うーん、あたしって正義の徒」
「…………………………」
店から放たれて来た不愉快な音波に慟は鉞を取り落とした。踏み固められつづけた道が軽く抉れる。人が逃げる。そびえ立つ鉞。
「……………………………………………………ふぅぅぅぅ」
慟は耐えた。何時の間にか鉞が自立していた。