眩しい光に目を開けると、そこには顔を不思議そうに覗き込む二十歳ぐらいの女性の姿があった。 だが、その女性、どこかで見たような顔だった。
しかもごく最近……
「こんにちは、私の姿は相変わらず綺麗だったかしら?」
いきなり突拍子なことを言われてルンドは一時混乱したが、暫くして思考が定まってくるなりアッと声をあげた。
「あなたはレージラールの像の!」
そうなのだ、この女性の容姿は(雰囲気は少し違うようだが……)あの像に瓜二つなのだ。
その言葉を聞くなりその女性は無邪気な笑みを浮かべて嬉しそうに飛び跳ねた。
「あーよかった、結構時間が経ったから顔なんかボロボロになっちゃってるかもって心配だったのよ!
でもあの像が私だって分かったってことは、まだまだ綺麗で美しい状態で保存されてるのね!安心したわ!」
一人で話を進行させるこの女性にルンドは少し戸惑ったが、また自分の理解し難い事を口にされる前に先手を打つ事にした。
「ちょっと待って下さい、あなたは一体誰なんですか? そしてここは? よく見ると私は浮いているようなのですが、何処なんですか?見たこと無いような所なのですが……」
ルンドの言う通り、二人がいる所は不思議な場所だった。
なにしろ辺りは何もない真っ白な空間で、二人はそこにゆらゆらとただ宛もないよ
うに浮いていたのだから……
「でもあなた、そのわりには落ち着いてるのね。
うんうん、じゃその質問にお答えしようかしら、他にすることも無いしね」
「ええ、ぜひともお願いします」
すると彼女はお願いされるのも久しぶりだわ!と嬉しそうに言った。
「ええと、まずは場所から説明するわね。ここはね、時の狭間よ」
レージラールという魔法を知る者なら誰でも知っていると言われている、代表的な魔法の副作用である<時の狭間>効果。
それは、レージラールの最大の弱点であり、絶対にあってはならない副作用の一つだった。
しかし発動するのはごく稀で、しかも相当に魔法を行使するときの負担が大きくない限りは、まず起こることは無いだろうといわれていた。
症状(?)は、場所と場所とをねじ曲げて作る空間に断裂が生じたことによる、割れ目から来るもので、何もない空間にただ放り出されて、一生そこから抜け出せなくなるという恐ろしいものだった。
「あと、ちょっと訂正するんだけど、私があなたをここに連れて来ちゃった魔法は、レージラールじゃなくて、<レージミール>っていうやつなのよ。
だから時の狭間も出来やすくなっちゃってるんだと思うわ」
「レージミール……聞いたことがある。
ラジアハンド歴代のビショップの中でも、たった一人にしか使えるものはいなかっ
たというレージラールの上級魔法の事だ、何でも時を渡る事が可能だったとか……」
すると今度は彼女が、意外そうに目をぱちくりと開閉した。
「あら、よく知っているのね、その通りよ。
そして私がその歴代のビショップで、唯一それを行使することが出来たただ一人の人物なのよ、どう、驚いた?」
驚きをあらわにする前に、ルンドには一つの疑問がわいてきた。
すなわち、「ビショップハ、イッコクニヒトリデハナイノデスカ」
「だから本当はあの像はレージラールの像じゃなくて、レージミールの像にして欲しかったんだけど、まあ、ごく一部にしか知られてないから仕方ないか」
軽く今の話を流される前に、ルンドはつい先程フッとわいた疑問を聞いてみることにしたのだ、が、遅すぎた。
「そうだ!あなたの名前、まだ聞いてなかったわよね!」
間髪入れずに聞かれた。
仕方ないのでしぶしぶ答えた。
次からはなんだか早口な会話になりそうだなと思いつつ。
「……ルンドと言います。あなたは?」
「私? 私の名前は……いえ、やっぱりやめとくわ。
行方不明になって何十年も経ってるビショップの名前なんかすでにラジアハンド王
国の記録から抹消されているでしょうから……」
そう言うと彼女は一瞬だけ、あの石像にしか無かったもの、悲しそうなほほえみをたたえた笑顔を見せた。
今の風陰気ならば、あの石像の本人だと言っても否定する者はいないだろう……
「でも、いつまでも<あなた>呼ばわりじゃ堅苦しいわね。
そうだ、以前好きだった花の名前から取って<フリージア>にするわ。
それなら幾らか呼びやすいでしょ」
いつの間にか話が完結していた。
「あの、質問しても良いでしょうか?
フリージアさん、あなたはなぜこんな所に来てしまったんですか、一体あなたの身
に何が?」
質問の許可を貰う前に質問内容を直後に述べた。
そうしないともう永遠にこの人からは解答というものを貰えないと直感したからだ。
しかし、貰えたのは解答ではなく、感想だった。
「……ルンドさんって顔は怖そうだけど以外と優しいのね。
だって私のせいであなたはここに来ちゃったのに、全然私のこと責めないんだもの」
「責めはしません。
こうなってしまったのもすべて私の意思ですから……
それよりも、いい加減に私の質問に答えて下さい!」
遂にルンドがキレた。
怒ったルンドはかなり怖い。
素から怖そうな顔なのだから、本当に怒った時の形相といったら
……恐ろしくて言い表せない。
「えっ?ああそうだったわね、本当にごめんなさい。
どうしてもこの話し方、直らないのよ」
申し訳なさそうにフリージアはようやくルンドが待ち望んでいた解答を話し始めた。
「あれは……そう、半世紀前になるかしら?私がまだ現世に存在していた時の頃の話よ……」