ファンタジア

ルンド16

「本っ当にお前って苦労人だよな」
 2年前にもなるだろうか、グレッタが口癖のようにルンドが何かとレイチェルの起こした後始末をする度に言っていた。
「何で未だにその立場を続けるんだ?」
 不思議そうに訊ねるグレッタにルンドは言葉を返した。
 これもレイチェル様に仕えると決めた時から覚悟していたこと、今更になって後悔もする気もするつもりもない、と。
 グレッタは王に忠誠を誓った。
 城に仕える騎士であれば、その王に仕える。 
 誰もが知っている当たり前の事だ。
 かつてルンドも王に忠誠を誓う他の騎士達と何ら変わらない道を選んだ。
 理由もなかった。
「忠誠」は外見だけのただの決まり文句だった。
 しかし、ルンドはある時本当の「忠誠」の意味を知った。
 重さも知った。
 だから忠誠を誓う「主」を変えた……

 

「……ンド……ルンド〜! しっかりしなさい〜! いきなり道でボーっとするものではないわよ〜!!」
「え、あっはい! 申し訳在りません、少し考え事をしていました」
 するとレイチェルが珍しそうにルンドの顔を覗き込んだ。
「珍しいわね、ルンドが急に考え込むなんて〜
 でも気を付けなさい〜、こんなに人が沢山居るところでボーっとしてたらたちまち迷子になってしまいますわよ〜!」
 そう言ってレイチェルは大袈裟に辺りを指差した。
 そこは騒がしい朝の出店に囲まれた大通りだった。
 男女の活気の良い声が色々なところから響いてくる。
「クラリアットは私の故郷、この街には何回か足を運んだ事がありますので迷うことはないのですが……」
 ルンドが軽く否定する。
「うっ……でもしっかりするのよ〜!」
 レイチェルが言葉に詰まって苦しい返答を返す頃になってようやく二人は目的の場所、クラリアットのコロシアムに着いた。
 ふう、と、息を整えるとレイチェルは思い出したようにそう言えば、と、口を開いた。
「アルフェリアさんはルークさんに会えたのかしら〜。あの人込みの中でよくお知り合いの方を見つけられますわよね〜」
 そう、アルフェリアはついさっきルークと言う知り合いらしい男を見つけた瞬間、駆け出し、驚く二人を残して、ちょっと会ってくる! 知り合いのルークって言う奴がいたんだ!! と嬉しそうに行ってしまったのだった。
 私たちはコロシアムにいますわよ〜!と、レイチェルが言った事は言ったがあんなに嬉しそうなアルフェリアは見たことがないのでいつ戻って来るのやら、検討がつかなかった。
「私達は私達の用を済ませましょう。
 オルドラン殿に宝刀を貸して頂くようお願いするためにここに来たのですから」
「そうでしたわね〜」
 そう言うとレイチェルは道で拾った広告をちらっと見やった。
 そこには以下のようなことが書かれていた……

 ――第○回クラリアットコロシアム出場者募集中!!!――

 〜戦士系模擬戦闘部門〜

 賞金 優勝者  70000ラージ

     準優勝者  30000ラージ

     準々優勝者  10000ラージ

 武器、防具はこちらで用意した物の他には原則的に認められません。

 相手が気絶する、もしくは降参するまで戦います。

 今回の部門は模擬戦闘部門ですので、相手を殺してしまった場合は反則負けとなります。

 戦士系部門は魔法を行使した場合でも反則負けとなります。

 なお、今回も優勝者にはあの四剣聖の一人、オルドラン様との特別面会権が与えられます!!

 この他にも今回は「魔法系模擬戦闘部門」が開催されます。

 賞与、ルールは戦士系と同じです。

 詳しくはコロシアム受付まで……

 

「これに二人で出場してどっちかでも優勝できれば確実に会えますわ〜」
 嬉しそうにレイチェルが言う。
「レイチェル様、『二人』とはもしかして……ご自身も出場なさろうと思っていらしたのですか!?」
 ルンドが驚いたように聞き返す、冗談であって欲しいと思いながら。
「当たり前ですわ〜!! 二人で出場した方が優勝できる確率が2倍ですもの〜」
「駄目です!! 一国のビショップとも在ろうお方がこのような闘技に参加されるなど以ての外です!」
「え〜っ! ルンド一人だけ出場するなんてずるいですわ〜!! 私も出たい〜っ」
「 い・け・ま・せ・ん !!」
 今まで以上に強い口調で言ったルンドに、なおも食い下がるようにレイチェルも口を開いたが、結局出場は認めてもらえずに終わった。

 

 所変わってここはクラリアットのコロシアム受付前。
 館内は既にかなりの数の出場者が待機しており、流石に誰もが腕に自信ありそうな顔をしていて、実際に出来そうな人物も一人や二人ではなさそうだった。
「いいですか、私が終わって戻って来るまで宿から離れないようにして下さいね!」
「分かっていますわ〜 ところでルンド、あなた実名で出場するの〜?」
 レイチェルが参加用紙に目を遣りつつルンドに訊ねる。
 コロシアム参加用紙には種族、歳、名前を明記する欄があり、その書く内容は偽りであってもよいが、必ず書かなければならないというおかしな物だった。
 ただ、結果を残せばここの名前等が記憶されるため、結局は歳の欄以外は真実を書く者が殆どだった。
「いいえ、この前のような事件があって月日が経っていませんから、実名は控えて偽名を名乗ることにします。
 その方が私たちが城にいないということが分からずに済むでしょうから」
「その方がいいですわね。じゃあ名前は『小鳥ちゃん』ね〜」
「えっ!?」
 言うが早いかレイチェルはルンドが止めに入る前にサッと名前欄に『小鳥ちゃん』と書いてしまった、『ちゃん』付けは明らかな確信的行為だ。
 かなり大きな仕返しになったことは間違いないだろう……
「小鳥は私の一番好きな生き物ですのよ〜」
 ルンドがガックリと肩を落とすとレイチェルが満足げに笑った。
「じゃあそれを登録したら次は変装しましょ〜!」
 目を輝かせてそう言うレイチェルを見てルンドはグレッタの言ったことを思い出して苦笑をかくせないのだった。

©ファンタジア