ファンタジア

リエル9(砂塵の国の仮面と少女と竜使い)

「ここ、ストレシアのワジュールでは、碧月の一日から十日に闇市が開かれるんだってな」
 ぼそり、とクロスドが言った。
「……よし! 闇市に行くか」
 ちょっとそこまでお茶してくるね、とでも言うかのようにクロスドはアッサリと言った。

 ここは、ストレシアの最西端に位置する、ワジュールと呼ばれる街。
 そのワジュールの宿屋の一室で、ブレス、エンペランサ、リエル、クロスドの四人は、
これからのことについて話し合っていた。
 昨日のことである。四人が砂漠を歩いていると、街までもうすぐ、というところでブレスが倒れてしまい、慌てたエンペランサがリエルとクロスドを置いて、ブレスと共にワジュールまで飛んでいってしまったのであった。
 ブレスとエンペランサを追って、一日遅れてワジュールに入ったリエル達だったが、ブレス達がどこにいるかわからない。なので、適当に宿屋に向かうことにした。
 ブレス達と別れて、一日とちょっと。別れた所から街はすぐ近くだったが、すぐといっても、一日はかかる距離で、結局別れてすぐの晩は野宿だった。
 エンペランサも気が利かない。どうせな自分達も連れて来てくれればよかったのに、などと図々しいことを考えているのは、もちろんクロスドである。
 だいたい、二人と別れて一日が過ぎているのだ。
 街に来ているのなら宿にいるのが普通だろう。
 そう考えた二人は、歩き通しの疲れもあったので、早々と宿屋に向かった。
 そして案の定、ブレスとエンペランサは宿屋にいた。
 たまたま同じ宿屋を選んだのだが、このことは吉だったのか凶だったのか。
 たぶん、ブレスにとっては“凶”だろう。 
 そんなことはともかく、運良く再会を果たした四人は、これからどうするかを相談していたのである。

「ここ、ストレシアのワジュールでは、碧月の一日から十日に闇市が開かれるんだってな」
 ぼそり、とクロスドが言った。
「……よし! 闇市にでも行くか」
 ちょっとそこまでお茶してくるね、とでも言うかのようにクロスドはアッサリと言った。
「ってことで、闇市までまだ日があるから、ここらでのんびり碧月まで待とうぜ」
 返事も聞かずに結論を出すクロスド。
 ブレスとエンペランサは呆然とし、リエルは平然と同意する。
「そうだな。お前のその、無駄に重い荷物も少しは軽くなるだろう」
「無駄に重いとは何だ」
 とは、クロスド。もうすでに二人で会話している。
「それに、ストレシアの闇市……非常に興味深い」
 訳の分からないことを言うリエル。あくまでマイペースだ。
「ま、どんなものか見てみたい気も、しないわけじゃないけど」
 やっとのこと衝撃から立ち直ったブレスが言う。
「ブレスは闇市に行ったことがないのか?」
「あぁ。ストレシア自体初めて来たし」
「なるほど。だから倒れたってわけだ」
 う゛っ。それはもう言わないで欲しい。
 ブレスは虚弱体質である自分を呪った。
「でもさ、闇市なんかに行ってなにするのよ?」
 聞いたのはエンペランサ。答えたのはリエル。
「買い物。それ以外になにをするんだ?」
「なにって……確かに買い物しかないけど……闇市って危ないんじゃないの?」
「まぁな。でもま、俺が居るから大丈夫だろ」
「それが信用できないのよ!!」
 怒鳴ったエンペランサは小声でなにやら文句を言い始める。
 だいたい闇市なんて、領主や貴族が行くところだし、危ない奴がうじゃうじゃ居るし、金がかかるし、品物はヤバイものだらけだし……
「……と・に・か・く! あたしは反対よ。ブレスくんをみすみす危険な所になんか連れてけないわ。行くなら二人で行ったらいいじゃない」
「それじゃ、わざわざ合流した意味がないだろ」
「俺は……行っても良いけど……」
 ぼそっとブレスが言った。
「えぇ〜!? 何言ってるのブレスくん! 闇市なんて危ないじゃない!!」
「でも、なんかありそうな気がするし……これもいい体験だと思ったんだけど……」
「そうそう、何事も経験が大事なんだぞ、トカゲ君。君の主人もそう言ってることだし、三対一で闇市決定だな」
「人語を解すホワイトドラゴンとは……さぞや高値がつくだろうに……」
「…………」
 リエルの言葉を聞いたブレスは凍り付く。
「まさかあんた、あたしを売る気じゃないでしょうね!?」
 言ったのはリエルなのに、何故かクロスドに聞くエンペランサ。
 彼女には、クロスドの方がやりそうな気がしたらしい。
「まっさか。だいたい君みたいにウルサイドラゴン、買い取ってくれるような人も居ないだろ」
 疑われたのに腹を立てたのか、皮肉混じりに言う。
「エンペランサに冗談は通じないのか……」
 残念そうにリエルが言う。しかし、アレはどう見ても本気だったような……
 思うのは俺だけだろうか、とブレスはこっそり考える。
 顔が本気だった。

 そんなこんなで、四人は闇市に参加することに決めた。
 しかし、闇市の開かれる碧月までは、まだ日にちがある。
 そのため、しばらくはこの街に留まることになりそうだ。
「闇市、か……」
 暗くなり始めた空に、ちらほらと星が浮かぶ。
 部屋の窓から空を見上げ、そして言う。
「また、ひと騒動ありそうだな……」

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