砂漠の街ワジュール、その町はずれに一角にそれは在る。
共同墓地……市民権を「買った」者のみが埋葬されている場所である。
まだ日もそう高くない時間帯、その共同墓地に一人の男が立っていた。
砂漠の街だと言うのに丈の長いローブに全身をくるみ、フードの下には緑色の仮面が彼の素顔を隠している。
その男が見つめている場所……そこには墓碑銘が刻まれていない墓が一つ。
「本当は花でも添えられれば良いのですがね……」
他人の前では決して見せない穏やかな口調。
「ワジュール……この街はストレシアの中でも貴方が得に気に入っていた街でしたね。金さえ在れば何だろうと、そうそれが人の命でも手に入る快楽郷……。ストレシアに入国して始めて立ち寄る街がこことは思いませんでしたよ。“霧”のことと言い、どうして貴方はそうオレの前に姿を見せるのです? これも業と言えばいいのでしょうか?」
そこまで言って彼は一息取る。
「お久しぶりです、ディモール師――」
「なぁ、ブレス。クロスドを見なかったか?」
「知らない。あの男の顔なんてもう見たくない」
宿屋のロビーに備え付けてあるソファーに横になっているブレスはリエルの問いに素っ気なく返す。一晩経ち、熱射病からは回復したのにその姿は完全に生気を失っている。まるでグールかゾンビのようだ、とリエルはふと思った。
「そんなに日射病が辛いのか?」
「違うわよ。アイツに賭のリベンジしに行って眠ったのが遅かったんだから」
ソファの隣に置いてあるテーブルの上でしきりに背中を気にしながらエンペランサは言う。
「……そうか、結果は――聞くまでもないな」
どうやらブレスは船での借金をギャンブルで返そうとクロスドに勝負を挑み負けて帰ってきたらしいのだ。まるで雪だるまのように増えていくブレスの借金。しばらくは路銀に困らないな、などと見当違いな考えがリエルの頭をよぎり、その考えを振り落とすかのようにしきりに頭を横にブンブンと振る。
「で、リエルちゃんアイツに何のようだったわけ?」
「いや、別に急な用事では無かったんだが……何をしている?」
自分の首を伸ばし背中に触れようとしているのか、変な形でテーブルのオブジェになっているエンペランサに呆れた口調で問いかける。
「アイツは朝早くにどっか出かけてったわよ。そんときあたしの背中に何か貼ってったんだけど、取ってくれない?」
そう言ってリエルに見せたエンペランサの背中にはクロスドの字で「差し押さえ」と書かれた札が一枚貼られていた。それを見て今度はため息まで漏れるリエルだった。