ファンタジア

ブレス15(砂塵の国の仮面と少女と竜使い4)

 どうもこんにちわ。エンペランサです。この間魔法の話をいたしましたが、私は魔法が使えると思いますか? これがね〜使えないんですよ。ただパズルをするみたいに理論を構築するのが好きなんです。しか〜し! 私にはちょっとやそっとじゃみなさんに真似の出来ない裏技を持っているんですが、それはまだ秘密にしときます。まー私がブレスくんと会って間もない頃、絶滅の危機にあるというドラゴンを何匹か呼びましたがあれも裏技です。みなさんには真似できないでしょ?さすがにここストレシアにはドラゴンの気配があまりないですが、いるにはいます。
 普段は砂の中か、オアシスにいるかどちらかです。このドラゴンは砂嵐を起こしたりするのが得意なんですよ。そして砂漠と同じ色の皮膚をしてかなり派手な色してるくせに臆病で、私の裏技で来てくれるのかも謎。この臆病なドラゴンは闘争本能も低くて逃げる専門。以前ここに来た時に黄金のように輝く皮膚のこの珍しい小型ドラゴンは捕らえられてペットとして金持ち連中が飼っているのを見かけました。あたしなら、間違いなくそんな奴等は丸焼きにしてやるんですけどね〜。

 

「あ〜い〜つ〜! あたしの恐ろしさを思い知らせてやらなきゃ!! ブレスくん!! あいつを探しに行ってこよう! 目にもの見せてやる!」
 エンペランサはクロスドが貼っていった差し押さえの札を見て怒りに燃えていた。
 俺はヤツの顔は見たくなかった。いくらやっても勝てなくてだんだんむきになってきて気がつけば借金は倍に膨らんでいた。どの位借金をしているのかなんて聞かないでほしい。気が遠くなる。
 エンペランサに襟首をグイグイ引っ張られしょうがなくエンペランサに付き合うことにした。昨日俺がぶっ倒れてから気が付いたらベットに横になっていてエンペランサにどうやって宿を借りたのか聞いてみたが秘密と言うだけで何も教えてくれなかった。そう考えるとこの真っ白いドラゴンにはいろいろ秘密があるのかもしれない。
「リエル、俺はエスに付き合ってくるよ。たぶん夜までには帰ってくると思うから」
 リエルはロビーのソファーに座り体をゆっくり休めるようだ。一言わかったという返事があった。
「なんかここは治安も悪いと言うし、リエルは女の子だから気をつけろよ」
「それはブレスにも言えることだと思うぞ。息の荒いドラゴン連れているんだ、街に被害がでないよう気をつけるんだな」
 リエルの返しに苦笑をせずにはいられなかった。エンペランサは玄関の前で早く!早く!とまくし立てていた。
「まったくだ。気をつけるよ」
 そう俺は答えた。するとリエルがニッコリと微笑んだ。不思議な所で微笑む子だなと感じた。昨日の賭けで疲労感はかなりのものだったが、重い腰を渋々上げる。
 コートは昨日の経験で着るのはやめ、半袖のシャツだけ羽織り遮光眼鏡をかけ、エスに強要されている藁製の帽子をかぶり熱さ対策万全の格好でエンペランサに付き合う。リエルが後ろの方で笑いを堪えていることに俺は気がつかなかった。
「ねー見てブレスくん。あの果物おいしそう。買って〜!」
 屋台がならぶ市場で怒りに燃えていたエンペランサはケロッと忘れて、珍しい織物や飾り、宝石、食べ物に目が輝き、まるで人間の女のようなはしゃぎぶりだった。
 ねだった果物を一つ買い、しゃべるドラゴンを物珍しそうに凝視している店の親父に礼を言ってその場を離れ、一軒一軒見て周った。あの織物の文様が綺麗だとか、あの宝石には魔法がこめられるんだとか、楽しそうにしゃべっている。
 この白いドラゴンはきっとほかのドラゴンと何かが違う。ただしゃべるだけじゃないような気がするが、ドラゴン自体をよく知らない俺には何が違うかなど解るはずもなかった。
「エスはドラゴンだけどこういうものに興味があるんだな」
 そうエンペランサに言ってみた。キョロキョロ見ながらだったが。
「うん。あるわよ。着もしないのに洋服を見るのだって好きよ。そうだリットちゃんにお土産買おうよ! あとラジアハンドのみんなにも」
「そうだな」
 エンペランサを通りすぎる人々は必ず目で追っていた。ただ気になるのが俺までへんな目で見られているような気がするのだ。リットちゃんにはこの国特有の模様の金細工の小さなイヤリングをエンペランサの指定の元買った。コクトー達には砂の神が描かれたお守りを買った。鞄に仕舞おうと鞄に手をやると俺の手とは別の手が伸びていた。
「!!!」
 俺はその手を捕まえひねり上げた。弱い弱いと言われているが、これでもラジアハンドの王室警護隊の隊長をやっている師匠の元にずっといたのだ。これぐらいは出来る。そして押さえ込んで見てみると女だった。俺の下で苦しそうに唸っているのを見て慌てて離れた。するとこの女、ゆうに事欠いて叫びだした。
「この変態!! あたしを犯そうとしたね!!」
 これに黙ってなかったのはエンペランサだった。
「何言ってんのよ!! あんたがブレスくんの荷物を盗もうとしたんじゃない!!」
 今度はエンペランサがいきなり女の仲間に網で虫を採るかのように掴まった。
「うわっなにすんのよ!! 網であたしを捕まえるなんて〜〜!!」
 網の中で暴れるエンペランサ。暴れると手足の爪に網がからまりよけいに絡まっていた。
「返せ!! そいつは俺の大事な仲間だ!!」
 俺は男に言い放った。騒ぎは野次馬を集めた。女は野次馬に俺が悪い事をしたかのように騒ぎ立て、ここの住人とは明らかに違う俺を、みんな目の仇にしはじめた。
「やだね! このドラゴンは今、俺が捕まえた。だから俺の物だ!」
 馬鹿な物言いをする男だった。しかし野次馬たちは男に賛同した。捕られるのが悪いなどと言いだす始末。
「あたしは物じゃないわよ!! 失敬だわっ!」
「こいつらが俺の鞄を盗もうとしたんだ! こいつらが悪いんだ!」
 俺は必死に訴えた。遮光眼鏡をシャツのポケットに乱暴にしまい、暑さにイライラが重なり、かなり熱くなっていた俺に誰かのこの一言が俺の理性をふっ飛ばした!
「よそ者を信じられるか!」
 よそ者!よそ者!と声がかさなり俺を襲った。子供の時もあった。ラジアハンドでは緑の髪の毛の子などいなかった。よそ者よそ者といじめられた。俺の中にある悪意が膨れる。俺の異変にまず気が付いたのはエンペランサだった!
「だめっ! ブレスくん!」
 俺はエンペランサの声は聞こえなかった。すべて消してしまいたいっ!! ドラゴンの消えることのない闘争心が呼び覚まされ、俺の帽子の下でギラリと光る瞳にみんな押し黙る。俺の体の周りに風が集まる。砂も巻き上げ始めた。野次馬どもがジリジリと後退する。すべてのヤツ等に噛み付くような威嚇をしていると誰かが俺の背後から近く気配があった。すばやく振り返り剣を切りつけた。
 ―――――――ギィンッ!!――――
 剣と剣が火花を散らして重なった。クロスドだった。
「よう。随分とすごい剣幕じゃねーか。人間の目付きじゃねーぞ。これなら俺といい戦いができるかもしれないぜ」
 そう言って俺を押し飛ばした。俺は風をうまく使って衝撃が少ないよう着地しクロスドにまた切りつけた。網の中でもがき続けるエンペランサが叫んだ。
「気絶させるの! ブレスくんを気絶させれば収まるからっ!」
 また剣を重ね力比べをしているクロスドにエンペランサは言った。
「後で酒の肴にどういうことか話してもらうからなっ!」
 そう言って俺の普段の力とは比べものにならないほどの力をなんとか押し切る。
 俺は今度は翼を使おうと背中に意識を集めた。
「今よ! クロスド!! 次の行動をさせないでっ!」
 クロスドが風のように走ってきて俺のみずおちに手刀が入り、俺はクロスドを最後まで睨み付けながら気を失った。
 俺が落ちたことに辺りから歓声が起きた。しかしクロスドは怒っていた。
「こいつは俺の連れだ! 寄って集ってよくやってくれたじゃねーか。テメー等を助けた訳じゃねー! こいつのためだっ! どけっ! あとそのドラゴンはオレが差し押さえたやつだ。返せ。用がないなら散れ!」
 クロスドはそう言い放つと野次馬は散り残されたのは例の女と男だった。
「さて、そのドラゴン返してもらおうか? 俺がもう差し押さえ済みなんだ」
 網の中でもうどうにもなりません、というところまで絡まっているエンペランサはすっかり忘れていたことを思い出した。
「アー!! そうよあんたよくも…」
 そこまで言って黙ってしまったのはクロスドが男の胸倉を掴み静かに脅していたからだ。
「いいか、余計なことをもうするなよ。こいつが優しかったから良かったがオレなら間違いなく二度と日の目を見せることはないほどにしてやってたぜ。わかったか」
 そう言って網をヒョイと奪いすっかり萎縮しきっている男の胸をトンッと押した。
 すると尻餅を付き、慌てて逃げ出した。女も一緒に逃げ出した。
「出して〜!」
 エンペランサの悲しい叫びは叶うことはなかった。
「よくそこまで絡まったな。ハサミで網を切らなきゃ無理だな」
 ブレスの鞄を肩に掛け、その方のかたにエンペランサの網を担ぎ、逆の肩にブレスを担いで宿に戻った。ブレスの帽子が網の棒の先に掛けられユラユラと動いていた。
「おい、トカゲ君。なんでブレスは藁の帽子に遮光眼鏡なんて変な格好をしてるんだ? 怪し過ぎるぞ」

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