クロスドと若い男──ブレス──のやり取りを、じっとみていたリエルは、片が付いたのを見計らって、男に近づいて行った。
クロスドの連れ、ということで小さなドラゴン──エンペランサ──は、リエルに敵意丸出しで、今にもつかみかからんばかりだ。
しかし、リエルはそんなことなど意に介さず、平然とブレスの隣りに腰をおろした。
エンペランサは、また何か言われるのではないかと、身を固くしたが、リエルは何も言わなかった。
もう、どれくらい経っただろうか。天高くにあったはずの太陽が、もうすでに沈みかけている。
(あぁ、もう日が沈んでる)
ブレスは顔を上げ、ぼんやりと思った。
と、リエルが口を開いた。
「先程は、連れのクロスドが失礼をした。主人である私から、謝罪をする。すまなかった」
突然のリエルの謝罪に、ブレスとエスペランサは面食らった。
文句は言われるとしても、謝罪を受けるとは思ってもいなかったのだ。
「な、なんだよ? いきなり……」
つい、そんなことを言ってしまう。
言った後で、少し後悔したが、言ってしまったのは仕方がない。
「何で、謝るんだ?」
ちょっと強めにきつく言ってみた。
「イカサマ。したのはこっちだ」
「!! じゃあ、やっぱり!?」
「あぁ。アレは立派なイカサマだ。種は……まぁ、そのうちわかるだろう」
リエルはエンペランサに視線を移し、続けた。
「あまり怒らないでやってくれ、小さなドラゴンよ。主人を思う気持ちもわかるが、船の上での乱闘はまずい。……それに、あれは貴女の主人に対する愚弄ではない。
たぶん……彼なりの励まし、だろう。……たぶんきっと」
最後の方は、少しあやふやだったが“励まし”という言葉に腹が立った。
「ちょっと、それどーゆー意味!? ふざけないでよ。ブレスくん、こんなに落ち込んでるのに。何が励ましよ! ブレスくん傷つけただけじゃない……!!」
エンペランサは一気にまくし立てた。瞳が、怒りにギラギラと光っている。
このまま炎でも吹き出しそうだ。
リエルはエンペランサをじっと、見据えると、ブレスに向かって言った。
「いいパートナーだな。ブレス」
(え??)
「どうしたの? ブレスくん??」
(なんで、この子、俺の名前を知ってるんだ??)
そう、ブレスもエンペランサも、リエルに名乗った覚えはない。
(なのに、何故──?)
そんなに顔に出ていたのだろうか、リエルに先回りして答えられてしまった。
「さっき、そちらのドラゴンが『ブレスくん』と言っていただろう。それともなにか違う名前なのか?」
「いや、いい。俺はブレスでこっちがエンペランサ」
言いながら、なんちゅー女だ、とブレスは思った。
ガキだからと思ってなめちゃぁいけない。
この少女。ただ者ではなさそうだ。
「私はリエルだ。仮面の男がクロスド」
(リエル……どっかで聞いた名前な気がする……)
ブレスは考え込もうとしたが、エンペランサがリエルにくってかかったので、そうもいかなかった。
「とにかく、何でそのクロスドとか言う奴が、ブレスくん励ますことになるのよ!?
わけわかんないわ。ちゃんと説明して」
「あぁ。ブレスは、どうやら剣士に向いてないらしい」
「!!!!」
「今はまだ、出来の良い剣に使われている程度。
だが、そこであきらめるな。悔しかったら、その剣を使いこなしてみろ、────という彼なりの、遠回しな励まし、だったんだろう……あくまでおそらくだが」
「なっ……」
ブレスもエンペランサも言葉を失った。
(あの仮面男。おちょっくてるだけだと思ったが、そこまでかんがえていやがったのか)
ブレスは、感激した。遠回しなクロスドの励まし。
そんなことにも、自分は気づかなかった。
(俺もまだまだだなぁ…………)
「さてっと、行くか」
ブレスは、気分新たに立ち上がった。
その表情からは、さっきの落ち込みは消えてる。
「行くって、どこへ?」
「モチロン、仮面野郎のとこさ」
そしてブレスは歩き始めた。
「なんだ? まだ俺に用か?」
突然目の前に立ちはだかったブレスに、不審そうにクロスドは言った。
「あぁ、ちょっと礼を言いたくてな」
「礼なんか、言われる覚えはないぞ?」
「いいから、おとなしく言われとけ。“アリガトウ” そんじゃ」
ブレスは言い終わると、そそくさと背を向けた。
ダッっとそのまま走り去る。
「なぁ、嬢ちゃん。何言った?」
クロスドは、後ろにいるリエルにきいた。
「あぁ、さっきのアレは、お前からの激励だ、と」
淡々と、それに答えるリエル。
「はぁ? 何をまた上手くもない冗談を……」
「彼はそれなりに信じているみたいだが? それに、お前も八割方そうだっただろう?」
クロスドは、リエルの科白に絶句した。
なんて主人だ。ガキだからって、甘く見てたら大間違いだ。
「それに、せっかく上手く行きそうなのに、「実は単なる暇つぶし。」なんていったら、それこそあのドラゴンが、口から火を噴いて大暴れするだろう?」
「確かに」
そして、クロスドはくっくっ、小さくと笑った。