「だからよ、オレは言ってやったんだよ」
「へぇ、そや見物だわな」
「おうよ、見せたかったぜ。オレの雄姿」
「ふ〜ん……て何さっきから黙ってんだよ、お前」
「…………へ? ……あぁ、ちょっとな」
「なんだよ、おかしな奴だな〜」
「なんだ? 陸が恋しいのか?」
「いや、ちょっとな……なぁ、なんか聞こえないか?」
「聞こえるって何が?」
「か細い……歌声……」
「はぁ? 何だよ例の亡霊のコトか? んなもん信じてるのかお前?」
「いや……やっぱり気のせいか? 疲れてるのかなオレ」
「そうだって絶対。ほら、酒でも飲んで気を落ち着かせろ」
自らに宛われた船室で酒盛りをする船員達。彼らがコトの異変に最初に気づいた者たちだった。
一人ベットの中、ブレスは何処か焦りに似た思いを抱いていた。
「どうかしたの? そわそわして」
枕元で丸くなっていたエンペランサが声を掛ける。
「まさかまだ昼間のこと引きずってるの? 頑張れって、あの女の子も言ってたんだからこれから努力すればいいじゃない」
子供に言い聞かせるように優しく声を掛ける。
「なぁ、エス、強くなるってどうすれば良いと思う?」
「え? いきなり何よ。やっぱり日頃の鍛錬と努力じゃないかしら。後、強い人に教えて貰うとか……」
「鍛錬………か……」
「ねぇ、ブレス君。どうしちゃったのよ、ホント」
「エス……俺さぁ……強くなりたいよ……本当に強くなりたい……」
「ブレス君は十分強くなれるよ。だってあたしが見込んだんだモン」
「……そうかな……」
そこまで話した後ブレスはベットから立ち上がり部屋を出ていこうとする。
「ちょっとブレス君。何処行くの」
「目、冴えたみたいだから夜風にでも。エスは先に寝てていいよ」
そこまで言って部屋から出るブレス。
そんなブレスの背中を見つめエンペランサはため息混じりに呟く。
「ブレス君……根を詰めないようにね……」
甲板へ向かったブレスだったがそこにはもう先客が居た。
「よぉ、今はトカゲ君は一緒じゃないのかな?」
クロスドである。
「寝れなくて夜風に当たりに来たんだ。そっちこそこんな時間帯に何してるんだよ」
「なにって……、強いて言えば見回りか」
「見回り? なんだ例の亡霊でも警戒してるのか?」
「亡霊ねぇ……まぁ、亡霊とも言え無くないか、ファントムだし」
最後の方はブレスには聞こえない様に呟く。
「そう言うわけだから坊やはおとなしくベットに戻りな。でないとコワイお化けが出るぞ」
「……あんた……強いよな?」
からかうような口調のクロスドに対し、しかし冷静に……と言うよりも覇気のない声で答えるブレス。
「まぁ、それなりに」
「俺もさ……あんた見たく強くなれるかな……」
力無く呟くブレスを傍目に、クロスドは軽くため息を付く。これならそう簡単に頭に血は上らないだろうが、こんな状態なら昼間の方がまだましだ、と。
「坊やが今までにどのような訓練をしてきたなんてオレは知らないし、興味もない。だが一つだけ言えるのは坊やは相手の動きを目で見すぎだ」
「なんでだよ、相手の動き見なきゃ避けられ無いじゃないか」
「相手の動きを見て動いたんじゃ相手がアクションを起こしてからでなければ反応できない。それよりも動きの流れを見て相手の次の動作を予測し動いた方がいい」
「……良くわかんねぇ……」
「結局、目に頼り過ぎなんだよ。坊やは」
「って、さっきから人のこと坊や坊や言うじゃねぇ! 俺にはちゃんとした名前がある!」
「そうか? ま、オレから見れば十分坊や――――――」
そこまで言ったとき、突然クロスドの表情が真面目なモノと変わる。
「突然黙ってどうしたんだよ?」
「……いや……何か聞こえる……これは……歌?」
そう呟いて周囲を見回す。しかし、周囲は厚い霧に覆われ海面すら見えない。
(―――霧?
)
「なぁ、坊や……。何時の間に霧なんて出てきた?」
「え? ホントだ。さっきまで星が見えるほど晴れてたのに……」
そんなことを言っている内に霧はさらに濃くなり一寸先も見えない状況へと変わっていく。
そして……、
「――――――――――――!!」
切り裂くような絶叫が船内を木霊する。
「今の……悲鳴か! 坊や、武器は持ってるか?」
「いや……部屋に置いてきたけど……」
「ったく! コイツ貸してやるから船室へ戻れ! それで嬢ちゃんとトカゲ君を連れて安全な所に非難してろ!」
細身のナイフ――昼間にブレスに突き付けた奴だ――を渡し、クロスドは悲鳴の方へと足を進める。数歩歩いただけだというのにブレスからはもうその姿は見えなくなるほど霧は濃くなっていた。
「……安全なとこって……どこだよ?」
霧の中、一人取り残されたブレスはポツリと呟いた。