「さて、話して貰おうか」
そう言ってクロスドが切り出した。もちろんブレスについてである。
「まァ、いーじゃない。お酒飲みましょ」
エンペランサはクロスドの器にとくとくと酒をつぐ。
「まぁ、たまには悪かないがな……でもブレスについてはきちんと話してもらうぞ。酒の肴に話す約束だからな」
器を手に取ったが口は付けない。
「わかってるわよ〜そんなこと〜〜」
言いながらエンペランサは瓶ごと酒を呷る。
エンペランサの周りには、すでに二、三本の空き瓶が転がっている。
「そんなに飲んで大丈夫なのか?」
聞いたのはリエル。酒場のこの席にはブレスを除く三人が来ている。
「ん〜……大丈夫よ〜伊達に何年も生きてるわけじゃないしね〜」
「……ドラゴンも酒を飲むのか……」
「それより、今日のブレスは何だったんだ? 飲んでばっかりいないでいい加減話したらどうだ、トカゲ君」
クロスドが不機嫌そうに言う。
酒には手を付けていない。どうやら酒が飲めないらしい。
「ウルサイわねぇ。今話すわよ! ……あのね……」
「ん?」
「……竜人族って、知ってる……?」
「はぁ??」
何か重大なことを言うのかと思い、真剣に耳を傾けていたクロスドが気の抜けた声を出す。
「そりゃ、竜人族ぐらい知ってるがな……あれだろう? 何年か前に急に大陸から姿を消したと言われてる、ドラゴンに変身できる一族」
「そう、それ……あのね、驚かないで頂戴よ」
「うむ」
ごくり、と喉が鳴る。
「ブレスくんは……竜人、なの……」
「…………うそだろう?」
クロスドはエンペランサの言葉を理解するのにたっぷり十秒かかった。
「本当よ。本人も最近知ったばかりで、あんまり自覚はないみたいだったけど……
やっぱりブレスくんには、竜人としての力があったのね」
「それで……あんな風に?」
冷静に聞き返したのはリエルだ。
エンペランサの爆弾発言にはリエルも驚いが、眉を少し寄せただけで、それ以外に変化はない。
――変わった子だ――とエンペランサは思う。思いながら言葉を返した。
「逆上して、眠っていた竜人としての闘争心が芽生えたんだと思う……」
クロスドは言葉を返せなかった。
あんなに弱っちいと思っていたブレスが、実は竜人だったとは。
これなら、体が弱いのにも合点が行く。
元来より、竜人は人間よりも全体的に能力が低いといわれていたのだから。
そして、今はもう、竜人は大陸から姿を消したといわれている。
「竜人、か……竜人ねぇ……」
クロスドはしきりに「竜人」という単語を呟く。
「では彼は何故、自分でアスリースまで飛んで行かなかったのだ? その方が早いのではないのか?」
「ブレスくんは、人に竜人だと明かすことを嫌がってたわ。
人前では決して翼を出さない、とも言ってたし」
「ふむ……こんな大事なこと、私たちに言って良いのか?」
「いーわよ、もう。ブレスくんも怒らないと思う」
「で?
これからどうする?」
クロスドの問いに、エンペランサは困ったような顔をする。
「竜人ってこと、バレちゃったしね。……ブレスくんと相談してみるわ」
「そうか……」
「もう、いい? あたし眠いんだけど……」
「あぁ、いい。お休み。」
「お休み、リエルちゃん。明日ね」
そう言うと、エンペランサはそそくさと立ち去る。
酔いが回ったのか、飛び方が怪しい。出入り口で落ちた。
「ふっ……」
よたよたと飛んで帰るエンペランサを見てリエルは少し笑う。
「しかし、ブレスが竜人とは……気が付かなかった」
呟いたクロスド。同様に、リエルも呟く。
「私も……お前が下戸だったとは知らなかった」
「バレたか」
「つらいなら酒の肴に〜なんて言わなければ良いものを」
「そー言うな。一回やってみたかったんだよ、こーゆーの」
「そんなもんか」
「そんなモンだ」
「ふん。飲むか?」
冗談交じりにリエルが言う。
クロスドは口元だけで渋い顔をした。
「遠慮する……」
本気で嫌そうだった。
――こうして、酒場の夜は更けていく。