第四章 笑顔のつくりかた
「え? 空いてない?」
レイチェルより一足先に宿屋についたリオとフォルクスは、それぞれ一人部屋をとろうと宿屋に頼んだ。
しかし、ちょうど今は混んでいて空きがないのだという。
「…どうする? 俺は別に相部屋でも構わないが」
「………」
リオは暫く考え込んだ。そして冷たくこう言った。
「…私は、別に宿屋に泊まらなくてもいいけど」
フォルクスは顔をしかめた。
「宿屋に泊まらないんなら、何処で寝るんだよ?」
「…何処でも。とにかく、他人と同じ部屋では―――寝たくない」
自分でも我がままだと思っていた。フォルクスが面倒くさそうな顔をしているのも分かっている。
だが、リオの人見知りは余計強さを増し、さっき出逢ったばかりの、しかも道を聞いただけの人と一晩を過ごすつもりは微塵もないのだ。
例えそれが自分のためでも、リオはフォルクスやレイチェルを信用出来ないでいた。
「…ハァ…。わかった、わかったよ。じゃあお前は外で寝るんだな」
フォルクスはリオを突き放したようにそういう。だがリオはこくりとうなづいた。
「じゃ、明日の朝この宿屋の玄関で待ち合わせな。遅れるなよ」
声も出さず、もう一度うなずくと、リオは宿屋を後にした。
外に出ると、満点の星空が空を覆い尽くしていた。
リオはそれを眩しそうに見つめた。
―――母さん……
そう心のなかで思った時、
「あら〜リオさん〜。フォルクスさんは〜?」
レイチェルだった。
「…宿屋、空いてないから…」
「一部屋も〜?」
「いや、一部屋はあったけど…」
「じゃあ、一緒に寝ましょう〜。それがいいですわ〜」
「…………」
リオは、また冷めた表情になった。
レイチェルに腕を引っ張られてもその表情は変わる事はなかった。
「リオさん〜?」
「…私、他人と寝るのは嫌だから」
「あら〜…」
レイチェルは残念そうな顔をした。キレイな瞳が悲しそうに潤む。
それに気づいていながらリオはレイチェルにフォローいれることなくスタスタと歩いていった。
「リオさん…」
レイチェルが淋しそうにつぶやいた。
次の日の朝、一番先に待ちあい場所にきたのはフォルクスであった。
「…あの人は?」
「レイチェルか?あいつはまだ寝てたよ」
―――起こせば良かったのに。
リオは心の中でそう思い、髪をかきあげた。
フォルクスもまだ眠い様子で、ふぁあぁと大きなあくびを一つした。
それから20分ばかりが過ぎた。
「―――遅くないか?」
「………………」
二人供、まだレイチェルは寝てると思い込んでいた。
しかし、部屋に迎えに入ると部屋は荒れ、ベッドのシーツやタンスの中がぐちゃぐちゃになっていた。
「追っ手か!?」
フォルクスがそう叫んだ時、
「ないんです〜…」
レイチェルの声がした。その声に二人供、呆然となる。まだ着替えてもいないレイチェルが宿屋のタンスを漁っているではないか。
「…何してんだ?」
フォルクスが、呆れたようにいう。
「昨日買った玉がないんです〜…。一緒に探してください〜」
レイチェルはそういうと、またタンスのほうを向き探し始めた。
「……これ?」
リオは小さなキレイな玉をレイチェルの前に差し出した。
「ああっ、それです〜。何処にあったんですか〜?」
―――目の前にあったけど…
レイチェルは嬉しそうにリオから玉をもらった。
そしてそれを大事そうにしまうと、リオに微笑んだ。
「リオさんって優しいんですね〜」
久し振りに見た、心からの笑顔だった。
自分はもう二度とこういう笑顔には出会えないと思っていたのに…
リオも笑顔を返そうと思った。―――でも、つくれなかった。
笑顔の作り方も忘れている自分に気付いた夜明けだった。