第二十五章 すべての記憶
リオは、アルフェリアの登場に別に驚かず、ぼんやりしていた。
ぼんやりと言っても頭の中ではいろんな考えや思想がうずまいているのだがはたから見れば、眠そうにひじをついてるだけなのだろう。
リオは窓をチラッと見て、フォルクスに言った。
「……ねぇ」
「ん?」
アルフェリアの横についていたフォルクスが背中を向けたまま答える。
「私、ちょっと出てくる」
「迷うなよ」
「わかってる」
リオは立ち上がってその部屋を後にした。
リオが部屋を出た理由は、ないといえばない。
ただフォルクスとアルフェリアだけの方が何かと話しやすいだろうと思って街に出たのだ。
全く見たことのない風景。
リオは行く充てもなく、フラフラとただ歩いていた。
何分か歩き、パン屋の前に立った。
リオは身を休めるようにその店の壁にもたれかかった。
どたばたと店の中で走り回る音がする。
「あー、ここまで練ったけどやっぱダメだ、このパンは。新しい生地をくれ」
パン屋の中から、声がした。
「…………」
――・・・ここまで育ててはみたが、どうだろう。アランを返して別の子を引き取らんか。
……?!
アラン……
誰だった? その名前は……
――もう、ここには帰らないよ。――どうせ誰も、僕を必要としてないんだから。
また優しい声。
でもこれは優しくなんかない。
これは……
「兄さん……」
彼が言った言葉。
からまった記憶をほどくように、一つずつセリフが浮かび上がってくる。
そうだった。
兄さんの名前は……アラン。
リオとは11歳も離れていた、たった一人の兄の名前だ。
パァン!!!!
「!?」
リオの大切な青い小さなピアスの片方が、大きな音を立てる。
壊れたのかと耳をさすると、形はきちんとあった。
なんの音だったのだろう……今のは……。
しかし、何故だかその音ですべて思い出した。
兄がいた頃の記憶。
どうして兄が出ていったのか。
全部……全部思い出した。
リオはもう一度ピアスが壊れてないか確認して、パン屋の前から去った。
ここからが本当の“兄探し”の幕開けであった。