第二十三章 ビーストマスターU
「なんだって死なねぇんだこいつ!?」
あれからまた何度か攻撃するが、倒れては起き上がり倒れては起き上がる。
その繰り返しだった。
灯台守の心は、未だ光りつづけている。
「ねぇ……囲まれた……」
リオが言った。
一匹に気をとられているうちに、いつの間にか囲まれていた。
フォルクスは小さく舌打ちして、エーリックと背中合わせに立った。
「数が多い……」
「普通 山にこんなのいるか?」
エーリックがそう言うとますます焦りだしてしまう。
リオもどうにか得体の知れないそれとコンタクトを取ろうとしたがダメであった。
もともと生物なのか分からない奴らだ。
動物を操るリオにはどうする術もなかった。
「とりゃっ!」
ためしにもう一度剣を振りかざすエーリック。
だがさっきの通り、暫くしてそれは起き上がる。
「駄目だな、これは」
不気味に近づいてくるそいつらをどうすることも出来ず、にじりにじりと後ずさりした。
まるでそいつらはそれを嘲笑うかのように揺れ始める。
せっぱつまりかけたとき、リオが言った。
「……一つだけ、方法があるけど」
「な、なんだそれは」
「――やっていいの。この小屋、……壊れると思うけど」
そう言ってその屋敷を見渡す。
王宮暮らしのリオにとってはこれは屋敷などではなく、“小屋”なのだろう。
「壊さなきゃ出来ないのか?」
「やってみないと分からないけど」
エーリックは暫く考え、そして他に何も仕様がないことにため息をつきながら渋々承諾した。
「やってみろ」
「……とりあえず、自分の身の安全は自分で守ってね」
「は?」
聞き返された言葉も繰り返さず、リオは目を閉じた。
超音波のような音がすべてに響き渡る。
どうやらその音はリオから発せられているらしい。
嘲笑うようにひしめきあっていたそいつらも、その音が耳障りなようだ。
最も、それはフォルクスやエーリックにも言えることであった。
暫くその音が鳴り、いつしか消えていた。
「終りか?」
「……来る」
リオがそういうと、雨の音を掻き消しながら何かの音がした。
それは何かがこちらへ走ってくる音。
けたたましい地響きが聞こえる。それがだんだん近づいてきて、そして……
ガッシャーアァァァアン!!
屋敷の壁がくずれたかと思うと、ものすごい数の動物達が入ってくる。
こうもり、狼、鳥……それらは一気にひしめきあっていたそれに突進する。
「やっぱ壊れた……」
動物達によって壊された壁を、リオが残念そうに見つめる。
「ちょっ……こいつらなん……痛っ!」
余りにもすごい数のこうもりが、仲間であるフォルクスやエーリックにも当たる。
肝心の不死身の怪物はというと、狼に噛みつかれ、食いちぎられる寸前であった。
「……逃げる」
「え?! この状態でか!?」
「この状態にするために呼んだんだから……。早く」
リオはそれだけ言うと引導をとるように先に走り出す。
フォルクスらもこうもりを振り払いながらリオについていく。
まだ止んでない雨が体に突き刺さるように降っている。
走りながら、フォルクスがリオに聞く。
「あれ、お前が一人で呼んだのか?」
「……そうだけど」
「そうか。大変だったな」
「別に……。小屋、壊しちゃったし」
屋敷が見えなくなるところまで走ると、リオが立ち止まった。
「止まって」
「え……もう少し行ったほうがいいんじゃないか」
「報告に来るはずだから」
「?」
リオは屋敷があった方向をじっと見つめた。
同様にフォルクス達もその先を見つめると一匹の狼が、こちらに走ってきていた。
その狼はリオの目の前まで来ると、礼儀正しく座った。
リオは狼と同じ高さになるようにかがんで、その首筋を優しく撫でた。
「そう……。終わったの」
そういうとリオは小さな子供をあやすように、狼の頭を撫でた。
「ありがとう……」
狼はリオのその言葉に満足したように立ち上がり、また屋敷のほうへ去っていった。
「あれ、食べられたのか?」
あれとは、さっきの不死身の怪物のことである。
「知らない……。私はただ助けてと呼びかけただけだから」
「そうか」
雨はまだ降り続いていた。