第二十二章 目障り
えんえんと続く坂道。
三人の疲労も目に見えるほどに大きくなっていた。
「……この坂が、あとどれぐらい続くんだ?」
「あとだいぶちょっと」
「だいぶちょっと……?」
「……黙って歩け」
息切れしながらかなり傾斜の高い坂をのぼる。
体力は抜群の二人でさえ、こんな状態であった。
一方リオは……
「おい、なんでそんな平気そうなんだ?」
汗ひとつかかず、無表情のまま山を上っていた。
「え……」
「俺達がこんなに息切れしてるのに、お前呼吸に少しの乱れもないな」
「……そうね」
「つらくないか?」
「別に」
疲れないのはきっと今は別のことで頭がいっぱいだからだ。
別のこととはもちろん……
「(兄さん……何処にいるんだろ……)」
兄のことである。
兄の姿も名前も顔さえも覚えていない。
覚えているのはあの優しい声。
それだけである。
「(どうやったら、もっと兄さんのこと思い出せるんだろう……)」
今のところ思い出した兄のセリフは2つ。
それだけではなんの手がかりにもならない。
「おいリオ。そこ滑るぞ」
「…………」
ずるっ!!
フォルクスの忠告の言葉さえ、耳に入っていなかった。
「……たった今滑るぞって言っただろ?」
「痛い」
「当たり前だ。こけたんだから」
しょうがないなと言った様子でリオに手を差し伸べる。
この坂で転げ落ちていかなかったのが不思議である。
「大丈夫か? 気をつけろよ」
パンパンと服の砂をはらって、また坂を登り始める。
「(……確か兄はセントルシア王国を出て行ったような……)」
「おいリオ。上気をつけろよ」
「…………」
バサバサバサ!!!
リオの頭が上から垂れ下がっていた枝にぶつかる。
「痛い」
「……たった今上気をつけろって言っただろ?」
「ごめん」
上からみしみしと音がする。
「おい、二人供!! 上上上上!!」
エーリックが忠告するより早く、腐って落ちてきた太い枝が……
みし……!
リオに直撃する。
「あ……」
―――うるさい! お前なんか、目障りだ!!
「リオ・……大丈夫か?」
「(今の……声……)」
枝がリオに直撃した時、頭の中でかすかに声がした。
あの声は、確かに兄の声だった。
「(私が……目障り……?)」
いつ言われたのか 何処で言われたのかもわからない。
ただ分かるのは、あの言葉は兄がリオに向けていった言葉なのだという事だけ。
目障り……
私は兄にとって、そういう存在だった……?
「リオ、おい。大丈夫か?」
フォルクスの言葉でまた我にかえる。
「あ、ごめん。大丈夫……」
「そうか? すごい音したけど」
「ううん。平気……」
「そうか。じゃ行くか」
さっきにも増してリオの頭の中は兄のことで一杯だった。
しかしリオはこの旅を放り投げて兄を探すつもりはなかった。
何故なら……
「リオ。無理しないでキツかったら言えよ」
兄よりも大切な存在が、ここにいるのだから。