第二十章 嵐
午後になり波が強くなった。
大きく揺れる船に酔うものも多くなってきた。
「大丈夫か、リオ」
「うん」
リオは気丈な顔で答える。
なるべく揺れないようにしている船長ですら何やら冷や汗をかいていた。
「こりゃあ、嵐になるぞ」
「何?」
「嵐だよ。ほら、あっちの雲は真っ黒だ」
船長の言う通り遠くの雲を見つめると暗黒といういい方がピッタリの雲が空全体を覆い尽くしていた。
「なに、大丈夫だ」
船長が汗を拭いながら言う。
フォルクスとリオは船室に戻り、少しばかりの仮眠をとった。
「こりゃでけぇ!」
さっきとは比べ物にならない風。
大きく揺れる船。
飲み込まれそうに高くあがる波。
まさしく嵐の到来であった。
「おい、大丈夫か」
やや焦り気味の船長にフォルクスが言う。
「なんの、こっちは長年こんなの経験してるんだ。こんな波……」
ザッパーン!!
大きな波が船の中に打ち上げる。
当然、船の中はずぶ濡れとなった。
「おい。水浸しだぞ」
「だから船室の中に入っとけって!」
船長が懇親の力をこめてかじをとる。
波にとられて上手くいかないようだ。
ザッパーン!!
もう一度同じような波が船の中に打ち上げる。
「…………」
ずぶ濡れのリオがたっていた。
「お、おい! そんなとこに立ってたらまた波が……」
ザッパーン!!
もろにリオにかかる。
リオの服も髪もぐちょくぢょに濡れていた。だがリオはその場所を動かない。
「何しにきたんだ?」
少し苦笑しながらフォルクスが尋ねる。
リオは濡れている紺の髪をかきあげながら答える。
「……手伝い」
その言葉に船長がハッとなる。
「お、そうかそうか。じゃ早いトコかきだしてくれ」
三度の波をうけた船の中はすでに大きな水溜りのようになっていた。
それをバケツですくわないと水の重さで船がしずんでしまうのだ。
リオはどこからともなくバケツを持ってきて、バシャバシャと水をかきだした。
「そんなチョビチョビやっててなんか変わるのか?」
あまりにも単調な作業にフォルクスが言う。
「ま、やんないよりはマシだろ」
船長が答えると、フォルクスは自分もバケツをとってきてリオと一緒に船の中の水を書き出す作業を手伝う。
時折大きく揺れる船に足を取られながらも、着実に水を出していった。
「うおーっ!?」
今までで一番大きな波が船に近づいて来ている。
あれをまともに受けたら飲み込まれそうなぐらい、その波は大きい。
「リオ、伏せろ!」
一生懸命まだ水をかきだしているリオを半ば強制的に頭を伏せさせる。
ザッパーン!!!!!
今までの作業がすべて無駄になるような水量がまた船の中に戻る。
「…………」
「…………」
「あーっ、良かった良かった」
飲み込まれなかったのが幸いと船長が笑顔でびしょぬれの服を調える。
「良くない良くない! またかきだすのかコレを……」
びしょ濡れの船を呆然と見る。
途方もない作業だ。
「…………」
「リオ、大丈夫か」
さっきの波でまた更にずぶ濡れになっているリオに一声かける。
「…………」
「おい……?」
「…………楽しい」
「は?」
少しばかり楽しそうな笑みをうかべているリオ。
船長もフォルクスもこける真似をする。
「な、何が楽しいんだよ」
「……波」
どうやら揺れたり波をかぶったりするのが楽しいらしい。
濡れきった体を起こしてまたバケツをとり、水を出し始めている。
こんな作業のどこが楽しいのだという表情をしながらもフォルクスもそれに手伝う。
「おかしなヤツだな、お前」
また一生懸命水をかきだしているリオに苦笑しながら言う。
「……今更気づいたの」
リオもそれに答えるように微笑を浮かべる。
結局嵐が通り過ぎるまで二人はこの作業を続けていた。