ファンタジア

リオ19

第十九章    ビーストマスター

 

 リオは黙ってその獣を見つめていた。
「…………」
 その目は何かを諭でもあり、ただ見つめているだけにもとれる瞳であった。
「リオ……確かビーストマスターだったよな」
 フォルクスが確認するように言う。
「……一応」
「そうか……」
 倒せとは命令できず、うなっている獣を暫く見つめた。
「……頼りにしてくれるの」
 リオはぽつりと言った。
「は、あ、ああ……」
 リオの言葉の意味が今イチよくわからなかったフォルクスは曖昧に返事を返す。
「私に、任せて……」
 リオは小さく前に一歩歩み出た。
 そして、その獣と目線が同じになるように少しかがんだ。
 かがんだといっても、獣も結構大きいので膝をつくぐらいにしかかがんでいないのだが。
「…………」
 まっすぐにリオの目と獣の目とが見詰め合っていた。
 フォルクスはいつまで見詰め合うのであろうとリオを見たところ、突然リオの瞳孔が青く光った。
 リオと見詰め合っていた獣の目も、それに反応するように青く光る。
 青い光が、しばらくリオと獣の目を光らせていた。
 先ほど悲鳴をあげたと思われる女性はその光景をまるで恐ろしいものでもみるような顔で見ている。
 やがてリオの目からも獣の目からも青い光が消えた。
「…………」
 獣は、おだやかな目をリオに向けた後、くるりと反対方向を向いて去っていった。
「終わったのか?」
「うん」
 一体何をしたのだという結果だった。
 リオは少しばかり遠くに腰を抜かしている女性に駆け寄った。
「ひぃぃ! 近寄らないで!!」
 リオが差し伸べた手を叩き、転がるようにその場から逃げた。
「あ……」
 もう遠くに走り去ってしまった女性をリオは黙って見つめた。
「お疲れ」
 そんなリオの肩を叩くフォルクス。
「うん……」
 うなずいて、立ち上がる。
 フォルクスがあの光景を恐れなかった事が唯一の救いであった。

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