ファンタジア

在村楽63

 楽が最初に立ち寄った店では奇妙な形の人形を売っていた。
 なんでも、こちらの言葉を理解するらしく、今回の闇市では人気商品になるだろうとその店の主人が言っていた。だが、楽にはそうは思えなかった。
 ただ張り付けただけのような目と、すぐに壊れそうな体。
 可愛らしくもないし、格好良くもない。
 歩いている様はどこか滑稽で、後ろには長いケーブルがついていた。
 何の力で動いているのかと主人に訊ねると、それは企業秘密だよ、お客さん……と言われてしまった。
 値段を見ると、楽の持ち合わせのお金では到底足りない。
 ヘスティアの言ったように、ここではお金がなければ何もできないようだ。

 楽はその店を後にした。
 少し歩いてから、さっきの人形の名前が気になりはじめたが、また戻って名前だけ聞くのも礼を欠くと思い、そのまま次の店へ向かった。

 2番目に立ち寄った店には首飾りがたくさん並べてあった。
 普通の店でよく見かける各種宝石の首飾りから、どこで手に入れたのか全く分からない、鬼の角なる首飾りまであった。
 ……そう言えば、小さい頃に一度だけ父から鬼の話を聞いたことがある。
 楽が生まれる前、テーヴァには鬼がいたらしい。
 その鬼を退治するために色々な種族の勇者達がパーティーを作り、鬼と戦ったんだ、とおとぎ話の間に父が話してくれた。
 その時は本当に鬼がいるのかどうか分からなかったが、角がこうして売られているということは、鬼の存在も全くの嘘ではなかったらしい。
 この角が、父の話してくれた鬼のものかは分からないが、渡り渡ってこんな所まで角だけが運ばれてくるなんて、ざぞその鬼も無念だろう。

 そんなことを思いながら楽はまた店を離れた。
 赤い炎に導かれて、次から次へと店を渡り歩く。

 5軒目の店で小さな看板を見つけた。

「有翼人売ります」

 !!!!!

 エルファ??

 その文字を見た時、楽は心底驚いた。
 エルファは捕まってしまったのだろうか……それではヘスティアは……?
 二人はやはり一緒ではなかったのか?
 次から次へと心配の種が沸々と湧いてくる。
 耐えきれなくなって、店の主人に話しかけた。
「あの、ご主人。
 この看板にある有翼人っていうのは……翼のあるあの有翼人……ですか……?」
 まったく、何をいっているのか自分でも分からなかった。
 主人はポカンとした顔で答える。
「は、はぁ? あんた何をいってるんだい? そのまんまだよ、そのまんま!」
 楽は質問を変えた。
「この有翼人はいつ売りに出されるんですか?
 今、この店にはいないようですが……」
「当たり前だろ。今いたら連れて行かれちまう。
 それに、珍しい商品は高く売れるように、まず最初に宣伝するのさ。
 常識だろ、常識!」
 またも主人は呆気にとられたような顔で答えを返した。
 そして、思いだしたかのように言葉を続ける。
「えぇっと、なんて言ったかなぁ、たしか……メ……そう、メル何とかっていう名前の売り主だった。
 金額設定やら何やらは全部売り主がやるから、俺はただ店を貸すだけだ。
 宣伝をして、手数料をもらう。
 まぁ、ちんけな商売さ」
 楽はその後も看板に書かれたことについてあれこれ訊ねた。
 それで分かったことは、売り主の名前が「メル〜」であること。
 売りに出されるのが闇市4日目であること。
 天使と呼ばれているかわいい有翼人だということ。
 そして、楽には手の届かない、法外な値で売られるということだけだった。

 楽は店の名を覚え、そこを離れた。
「バストル・ニーチェの小屋」
 そう、店の屋根に刻まれていた。
 4日目にここに来れば、エルファに会えるかもしれない。
 ……だが、それがたとえエルファだとしても、どうやって助けることができるだろう。
「商品」として店に出るということは、買う以外に救う方法は無いのか?
 それに、売り主は「メル〜」だという。
 咄嗟に宿屋・メルッチョの名前が浮かんできたが、あの女主人の名前はマリアだったと思いだし、すぐに消えた。
 マリアさんがこんな事をするはずがない。
 ……メル〜とは、誰だろう。
 一番良い方法は、4日目に売りに出される前にメル〜に掛け合って、助け出すことだ。
 しかし、そんなことだできるだろうか。
 きっと屈強なガードを付けているだろう。
 しかし、倫理に外れた行為をこうも当たり前のように行われるのは楽にとって気分がいいものではなかった。

「よしっ」

 楽は決めた。
 明日はメル〜という人物を調べよう。
 そして、その有翼人を助け出す。
 場合によっては戦うことになるかもしれない。

 楽は少しずつ明るくなってきたワジュールの町並みを来た通りに戻り、宿まで戻ってきた。
 いつの間にか日を越していたのだ。
 きっと目覚めるのは昼時だろう。
 マリアさんに迷惑がかかるな……などと思いながら、静かにドアを開けて自分の部屋まで戻り、横になった。
 目を閉じるとまた闇に引き込まれる。
 しかし、今日は昨日のような光は見なかった。
 ただ暗い中を歩いている夢……。
 昨日は聞こえた声も、今日は聞こえない。

 楽は深い眠りに就いた。

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