「おまえさん、生まれはどこだい?」
客の居なくなった静かなカウンターに女主人の声が響いた。
「テーヴァの城下町、アディンバルです」
「へぇ、あの有名な剣職人の住むところじゃないか。
あそこの剣は持ち主によって不思議な力を発揮するって有名なんだよね。
私も、若い頃は世界中を冒険をしていてね、その剣ほしさにアディンバルまでよく足を運んだもんさ」
一瞬耳を疑った。父の話がこんな所で聞けるなんて思ってもいなかった。
「父を……いえ、その剣職人のことをご存知なんですか?!」
剣職人を“父”といったことは小声で聞こえなかったようだ。
「そりゃ勿論さ。剣を求めて何度も店まで行ったんだからね。
普段は落ち着いた気さくな主人なのに、剣の話になるとガラリと人が変わってね、自分の認めた剣士にしか剣を作らない頑固者に変身するのさ。
その奥さんが綺麗な人でね、彼女の創る鞘は素晴らしい芸術品だったよ。
不思議なことに、彼女の鞘に収まった剣は持ち主の風格を上げるんだ。
持ち主が鞘に気後れしまいと自ら精進するのか、それとも鞘自体に不思議な力があるのかはわからないがね。
そういうわけで、あの夫婦の作った剣を持っているっていうことは、見かけも中身も一流ってことになるのさ。
おまけに人それぞれで違う、不思議な力まで身につくしね。」
……懐かしい、両親の様子が瞼の裏によみがえってくる。
毎日のように客が来て、両親は剣を創り続けた。
その様子をじっと見つめながら育った自分。
あまり遊んではもらえなかったが、大切に愛されているのはよくわかった。
その両親が何故突然消えてしまったのだろう。
そう考え出すとますます分からなくなる。
「……どうしたんだい?」
女主人が心配そうにこちらを見ていた。
「あっ、いえ、何でもありません。昔のことをちょっと思い出して……」
「そんなに若いのに“昔のこと”を思い出すのかい。
あんたって見かけによらず苦労してるんだね。
……それはそうと、明日はたっぷり仕事してもらうんだから、そこの酒飲みみたいに今日は早く寝な」
女主人の指し示した先には幸せそうな顔で寝ているデントがいた。
果たして今日の事を覚えているのかどうか……
忘れていたとしても、明日が大変な一日になるのは間違いない。
「……そうします」
楽はすこしため息をつき、寝支度に取りかかった。
そして夜は更け、朝がやってくる。大変な一日が始まるのだ。