「……闇市ってのはね、年に数回開かれる一種のお祭りみたいなもの。
このストレシアで、必ず夜に開かれる市。
毎回違うところでやるから、行き当たりばったりで辿り着くか、特別な情報網を持ってる人しか訪れることができない。
でも、売ってるものがそれなりに変なものだから、その町で暮らす普通の人達にはあんまり縁がないの。
逆に、旅人や交易人たちはよく利用するのよ。
とんでもないお宝とかも手に入ったりもするから、私は行ったことあるけど。
楽もテーヴァの出身って言ってたから、それで知ってるんだと思う。
テーヴァは交易が盛んで、いろんな人が出入りするから……」
楽がうなずき、ヘスティアが話を続ける。
「それで、売ってる変なものっていうのが、結構面白いの。
海の妖精の泣き声が聞こえる貝殻とか、砂漠で心半ばにして倒れた人の魂が入った瓶とか……
あと、この前行ったときはシャープネス博士の創造物も売ってたわ。
って、二人は知らないわね、シャープネス博士の名前を……。
裏ではスッゴク有名な人なんだけどね……。
それと、誰が買うんだか分からないけど、結構物流が激しくて、見つけたその時に買わないと、次の日には無いってことが多いの。
あと、『妖しもの屋』っていう見せ物小屋もある……
これはエルファ君にはあんまりオススメできないけどね。
いくら斬っても立ち向かってくるゾンビとの決闘とか、私一回見たけど、アレは好き好んで見るものじゃないわね。
もし何か買う気なら、大金持って行かなきゃ駄目。
ただし、あんまりお金持ちそうに見えてると、すぐに囲まれてオジャン。
盗賊に『襲って下さい』っていってるようなもんよ。
だから、自分で戦えない大金持ちは、腕っ節の強い護衛をつけている人がほとんど。
幸い、私にはこの子がいるから……」
そう言って、ヘスティアは腕輪をやさしくなでた。
「ふぅん……これから行くところはそんな所なの……楽の言ってた『追跡の瞳』も、そこなら売ってそうだね。
……よし、わかった。
それじゃぁ、早く行こう! まだまだ先は長そうだよ」
どうやらエルファも闇市のことを分かってくれたようだった。
年頃のせいであろうか、その瞳は興味シンシンに輝いているように見える。
「そうですね。それでは出発しましょう」
楽が言い、3人は荷物をまとめてワジュールに向かって歩き出した。
出発は朝だったが、昼に近づくにつれて砂漠の温度はどんどん上がる。
そして、楽達の水不足問題はヘスティアと会って解決したわけではなかった。
もうほとんど水が底をつきかけている。
ワジュールに着くよりも先に、まずオアシスを見つけなければならない。
が、楽が周りを見渡しても、一面黄色い大地が続くのみ。
エルファが見ても、今回ばかりはオアシスを見つけられないようだ。
なにしろ、さっきから歩いているこの砂漠は昨日までと違い、平坦ではない。
かなりの起伏があり、進行方向には大きな砂山が立ちはだかっている。
登ろうとしても足場の砂が崩れるばかりで、どうにもならなかった。
「仕方がありません、ここは大きく迂回して行くしか……」
「待って!」
楽が言いかけると、その言葉をヘスティアが遮った。
「シェーナが見てきてくれるって。
オアシスだって空からなら見つけられるかもしれないし、迂回するって言ったって、方向が分からなくちゃどうにもならないでしょ?
それじゃ、シェーナ、お願いね」
言葉と同時にシェーナが羽をばたつかせる。
そして、3人の前に立ちはだかる砂山を軽々と越え、すぐに見えなくなってしまった。
「さ、ここで少し休憩しましょ」
ヘスティアが言い、楽も腰を下ろした。
しかし、エルファはずっと立ったままだ。
エルファはシェーナの飛んで行った方向を、不思議な眼差しで見つめている。
「エルファ君?」
ヘスティアが呼びかけると、やっと気付いたようだ。
「あっ、うん……」
心ここにあらずといった風で、ゆっくりと腰を下ろす。
それでもまだシェーナの飛んでいった方向を見つめている。
それを見て、小声でヘスティアが楽に言った。
(ねぇ、エルファ君どうしたの?)
(……さぁ……)
楽はエルファの気持ちがうっすらと分かったような気がしたが、うまく説明できないのでそう答えた。
有翼人のエルファ……そして自由に空を飛べるシェーナ………
何かしら思うところがあるのだろう……。
しばらくして、シェーナが戻ってきた。
ヘスティアの肩に止まり、会話するように鳴いていたが、楽には勿論分からない。
あとからヘスティアが教えてくれたところでは、砂山を越えて半日くらいのところに小さなオアシスがあるという。
そして、砂山を越えずにそこに辿り着くにはここから大きく北に回り込んでいくのがいいようだ。
南に回ると距離的には随分近いが、旅人を死に追いやる砂穴があるらしい。
穴の終着点に何があるのか誰も知らないが、穴に落ち込むようなことがあったら一貫の終わりだ。
なにせ、穴に落ちてから生きて帰ったものが一人もいないのだ。
……そういうわけで、3人は北へと進路を変えた。
太陽の強い日射しを背中で受けながら、ゆっくりと前へ進んで行く。
今日は風がない。
それが随分救いになっている。
この暑さのうえに、砂混じりの強風が前からでも吹き付けて来ようものなら、たちまちスピードは落ちる。
オアシスにたどり着くだけで3日はかかってしまっただろう。
風のないおかげで、昼間は暑さがなかなか引かなかったが、夜の帳が降りる頃になってようやくオアシスを自分の目で認めることができた。
「やっと……やっと見えました……」
「歩いた甲斐があったわね……さすがに今日は疲れたわ……」
「のど乾いたぁ……」
3人が3人ともへとへとだった。
目に入ってるのは、もう眼前にまでせまったオアシスのみ。
楽の腰から下がったお守りが淡い光を発しているのに気付く者はいなかった。