エルファが路地裏で少年を追っていた頃、楽は店の建ち並ぶ道の真ん中で男達に囲まれていた。
「おっ、兄ちゃん、高そうな剣持ってるじゃないか。俺のと交換しないかい?」
「さっきの小僧、ずいぶん金持ってたが、兄ちゃんもどっかに隠し持ってるんじゃないのかい?」
背丈が楽の頭二つ分高いだけでずいぶん威圧感があるが、剣の腕はたいしたことないというのが直感で分かった。
相手の技量を瞬時に判断するのも大切なことである。
これならばすぐに片が付くと踏んだ楽は剣の柄に手を掛けた。
シュッ!
一瞬のうちに楽を取り囲んでいた男達の服が裂かれ、服の切れ端が風に舞う。
多少は警戒していたものの、あまりの速さに呆然とする男達。
そして、驚いているのは男達だけではなかった。
楽も同様に驚いている。
今、剣を抜いたのは楽ではない。
楽の剣はまだ鞘に収まったままである。
それでは誰が?
辺りを見回すが、そこに剣を持った人物は見あたらない。
男達はこの剣の主の正体を知っているのか、サッと顔色を変え、蜘蛛の子を散らすように方々に逃げていった。
「……一体今のは……」
楽が呆然と立ちつくしていると、果物を売っている店の主人が話しかけてきた。
「兄ちゃん、大丈夫かい? いや、ほんと助かったね。
奴らはこの辺りによくいるチンピラさ。
たいして強くもないくせに、ドスの利いた声とあの人相で女子供や年寄りをいびるのさ。
決して自分たちと同じくらいの年齢の者には手を出さない。
でも、奴らのバックにはちょいと有名な盗賊団がついていてね、みんなそれを怖がって反抗できないのさ。
それにしても、あんた強いねぇ。
シュパパパパって奴らの服を刻んじまうんだから……。
いや、ほんと驚いたよ」
「いえ、今のは拙者ではなく……」
「何言ってんだい、今そこにはあんたしかいなかっただろ?」
「それは……そうですが……」
「じゃぁあんたで決まりだ。
いいじゃないか、助かったんだから。
慣れない砂漠の熱でやられちまったんじゃないのかい?」
店の主人はハッハッハと笑うと、店の奥に入って行った。
「砂漠の熱……か……
でも、今のはそんなものじゃない。
確かに誰かが突然入ってきて男達を斬った……
ものすごいスピードで……そして、消えた……間違いない」
楽はもう一度辺りを見回した。
しかしそこには剣士どころか、剣を持った者さえ見あたらない。
先程の店の主人が声を張り上げて商売を再開した。
……楽はあきらめて、一路城へ向かうことにした。
今は剣士の正体を突き止めることよりもエルファを探すことが先である。
しかし、裏路地に入ってしまっては探しようがない。
だから楽は城へ向かった。
目的地はストレシア城。
それは、何度となくエルファに伝えてあったことである。
城で待っていればきっと会えるだろう。
楽は歩き始めた。
そんな楽の様子を建物の影から見つめる者があった。
真っ赤なリンゴを白い歯でかじりながら、引き締まった腰に片手を当て、じっと見つめている。
その腰には一振りの剣が下がっていた。
不思議な紋様の鞘に収まった、すらりとした剣である。
楽が城に入ったのを確認すると、その人物も影から出てきた。
赤茶色の長い髪をなびかせながら……。
鍛え上げられた筋肉には少しの無駄もない。
厳しい顔つきをし、ただならぬ雰囲気を漂わせているが、女性である。
雑踏に出て城の方を一瞥すると、楽とは反対の方向、門に向かって歩き出した。
誰かに見られているなど知るよしもない楽は、そのまま城に向かった。
そして入り口でエルファを待つ。
日が昇りきり、暑さも増してきた頃、道の向こう側から聞き慣れた声が聞こえてくる。
エルファであった。
見ると、鞄がない。
あのまま少年に追いつかずにあきらめたのだろうか……。
それにしては晴れ晴れとした顔つきである。
訊いてみると
「あ、あれ。あげたよ、あの子に」
そんな答えが返ってきた。
何があったのかは分からないが、無事、エルファと再会することができた。
二人揃ったところで、城の中に入る。
石造りの城内はひんやりとした空気で満たされていた。
一般の者が城に入る場合、かなりの制限がかかる。
武器の封印、そして呪文詠唱の禁止。
行けるところも限られており、ストレシア騎士団の駐屯所と図書館、そして諸々の設備の利用だけである。
一国の城なのだからそれは当たり前のことであるが、やけに警備が厳しかった。
これも近々開かれるという闇市の影響であろうか。
しかし、楽にはそれで十分だった。
目指すところはストレシア騎士団の駐屯所。
砂漠の民ならば優れた剣士の居所も知っているであろう。
そして、先程の剣の主も……。
「拙者、これから騎士団の駐屯所に行って色々訊いています。
エルファさんはどうしますか?」
楽がエルファに訊ねた。