(この国では子供でもこんな事するのか)
等と密かに感心しているエルファをよそに、少年は必死に走っていた。
あたりは今までの店や住居が建ち並ぶにぎやかな道とは反対に、薄暗い狭い道が続いていた。
少年は袋を抱いて、どんどん狭い道へ入っていった。
「くそぉ〜。ちょっと少年! 返してくれよ!!」
「ふん! 嫌だよ!」
エルファが後ろから叫ぶと、少年は鼻息を荒くして叫び返してきた。
(楽はどうしたんだろ? 自分勝手に突っ走っちゃったけど……)
迷路のように組まれた裏路地は、光が少なく時間感覚がおかしくなりそうな気がした。
もうどのくらい走ったか解らなくなった。
「はっ、はぁぁ! かえ……返せ! おい!」
息がとぎれとぎれになり足がもつれ始めた。
(う……転ぶ)
と思ったすぐ後、エルファが転ぶより早く前を必死に走っていた少年がドテッと派手な音を立てて転んだ。
「ふ……ふぁぇぇぇぇん!!!」
「なっ……」
泣き出した少年を見て、エルファは絶句した。
ナイフを持ってお金を盗む少年が、転んだくらいで泣き出したからである。
しかし、よく見るとその少年は7,8歳くらいの子供だ。
「大丈夫か?……!」
思わず駆け寄って少年の前にしゃがみ込む。
少年は
えぐっ、えぐっ……
と泣きじゃくりながら、一度コクンとうなずいた。
二人はあまり汚くない地べたに座り込んで壁にもたれかかる。
「どうして金盗んだりしたんだ?」
まだ泣きじゃくる少年に問いかける。
「うっ……妹と……弟……」
「あれ? 兄妹いるんだ。……両親は?」
更に問いかけると、少年はフルフルと頭を何度か横に振った。
そして、
「死んだ」
と一言言った。
「あ、そ。悪いこと聞いちゃったな……。それじゃぁ何で僕の事ねらったの?」
「お兄ちゃんの袋のなかすごく入ってそうだし、お兄ちゃんまだ子供っぽかったし弱そうだったから……」
(むか。やっぱり弱そうに見えるかなぁ?)
とにかく、楽の所に戻らなきゃ。
と、エルファは少年の頭をクシャッとなで回し、手を取った。
少年は素直に立ち上がるとエルファを見上げた。
エルファはお金以外に果物も入った袋を少年の手に持たせた。
「それ。あげるよ」
ポケッとエルファを見つめる少年ににこっと笑いかけて言った。
「それじゃぁ僕は仲間の所に帰らなきゃいけないから」
歩き出した。
「あ……。お兄ちゃん! 名前は?」
振り返ったエルファに向かって、少年は声を張り上げた。
「エルファだよ」
「エルファ兄ちゃん! あのね、さっきの所にもどるにはね! そっちの一本道をまっすぐいって、四こめの角を右に曲がって、次の角をまた右に曲がって真っ直ぐいって、そんで二こめの角を左に曲がってずぅぅっと行って…………」
少年の言った近道どうりに行くと本当にさっきの所に出た。
本当に着いて安心するが、その安心も束の間、そこに楽や男達の姿は無かった。
何ごともなかったかのように、店のおじさんは商売をしていた。
「あれ?! 楽ぅ?!」
はぁぁ、と息をつき涙目になる。
まだよくも知らないストレシア城下町でエルファは何をしようかとあたりを見回す。
(先に行ってようかな? ストレシア城)
行き交う人に城への道を聞き、再び歩き出した。
もう日は昇りきっていた。