太陽が南の空にサンサンと輝き、二人の旅人を照らしていた。
行けども行けども目の前にあるのは一面の砂漠。
時たま吹いてくる砂漠の風が二人のマントをなびかせる。
二人はただ黙々と歩いていた。
無言のまま先へ先へと進む楽。
そして、話しかけようにも何を話したらよいか分からないエルファ。
お互いのことを全くと言っていいほど知らないこの二人は、ただ黙って歩くしかなかった。
二人の間に共通してあるもの、それは疲労だけ。
それだけの共通項しかない二人の会話があろうはずもなかった。
歩き始めてから6時間が経とうとしていた頃、
エルファが立ち止まり、深緑色の大きな目を細めて前方を見た。
「どうしましたか?」
楽が訊くと、エルファは急に走り出した。
「見てよ、楽! あそこにオアシスがあるよ!」
エルファは一旦止まってこちらを振り返ってそう言い、前方を指さしながらまた走っていってしまった。
楽はよく目を凝らして前方を見たが、楽の目に見えるのは先程と変わらず、一面の砂漠だけだった。
不思議に思いながらもエルファのあとを追う。
あんな小さな体のどこに力が隠れているのだろうか、ものすごいスピードで走って行くエルファに、楽はなかなか追いつけなかった。
楽がエルファに追いつけた時、それはオアシスに到着した時だった。
水の湧き出る小さな泉と木が数本しかない小さなオアシスだが、周りの地面には少ないながらも緑がしっかりと繁っており、今まで走ってきた砂漠とは別世界のようだった。
「本当に、あったんですね、オアシス……」
切れ切れになった呼吸を整えながら、楽が誰にともなく言った。
エルファはというと、先程から泉の縁に手をついて水を飲んでいる。
「ぷはぁ、美味しい!
楽も飲んでみなよ。ここの水、結構美味しいよ」
袖口で口を拭いながらそう言うと、今度は緑の上に体を投げ出した。
まるで嵐のように動く少年である。
呼吸が落ち着き、楽も泉の水を飲んでみた。
ひんやりした感触が喉にしみわたる。
……美味しい。
ただの水であるはずなのに、何故か美味しかった。
どことなく甘いのは、大地の鉱物が溶けだしたからであろうか。
地下からこんこんと湧き出るこの泉はこれまで多くの旅人達にしてきたように、今、二人を癒している。
水を飲み終えた楽は羽織の袖口で口を拭い、エルファを真似て、大の字になって仰向けに横たわった。
青い空が見える。
そして、雲も。
空を見ていると本当に平和だと感じる。
何もかもを忘れて空を見ていると、心が晴れ晴れするのが分かった。
しばらくそうしていると、オアシスに風が吹き、楽の耳元でかさかさと音がした。
何かと思って起きあがり、自分の頭の跡のついた緑をよく見ると、針の穴ほどの大きさの、小さな黄色い花が咲いている。
よくよく目を凝らして周りを見てみると、所々にその花が咲いているのが見て取れた。
楽はこの花の正体を知っていた。
どんな性質を持っているのかも分かっている。
花自体はそれほど珍しいものでもないが、性質を知っている者は少ない。
「エルファさん、ここで少し歌っていただけませんか?」
急に楽が言った。
気持ちよく寝転がっていたエルファが怪訝そうな顔つきで起きあがる。
「ここで? ……別にいいけど……」
エルファは喉の調子を整えて、一昨日の夜、ザクの宿屋でつくった歌を歌い始めた。
歌声がオアシスに広がる。
と同時に、地面が動いた。
「うわっ!」
エルファが驚いて歌をやめた途端、地面もその動きを止めた。
「何? 何なのこれ!」
「気にしないで、歌を続けてみて下さい」
「気にしないでって、今見たでしょ、地面が動いたの!」
「大丈夫ですよ、危険はありません」
「危険はないって言ったって……」
エルファは両手で地面を確かめる。
そこには、来たときと同じ緑の大地があった。
「大丈夫ですから、さぁ、歌を」
楽がエルファを促す。
エルファは気が向かないようだったが、渋々歌を続けてくれた。
また地面が動き出す。
いや、動いているのは地面ではない。
本当に動いているのは、そこに繁る緑だった。
緑はエルファの歌に合わせて右に左にと揺れ、その丈をどんどん伸ばしていった。
動いているのが地面ではなく、緑だと知り、なおかつそれが自分の歌に合わせて成長していくのがエルファにとっては新鮮で、ものすごく楽しく感じられた。
歌にもその楽しい気持ちが表れ、エルファの歌はますます心のこもったものになった。
一曲が終わる頃、緑は二人の膝の辺りまで伸びた。
そして、突然
「パンッ!」
という音とともに、針の穴ほどだった黄色い花が手のひらほどの大きさにまで一気に膨らんだ。
「わぁ……」
驚き、辺りを見回すエルファに楽が言った。
「この植物はバージリアといって、歌声に反応するんです。
バージリアの“バージ”の部分は、バードから来ているんですよ。
拙者も花が開くところは初めて見ました。
小さい頃、拙者もこの植物を見つけて歌ってみたのですが、どうもそれが歌とは認められなかったのでしょうね、バージリアに。
花が膨らむわけでもなく、成長もしませんでした。
それ以来、いつか花を膨らませてやるぞ!と思って
歌の稽古をしてみたのですが、からきし駄目で……」
楽が恥ずかしそうにそうしめくくると、エルファが笑い出した。
「楽って変なところあるんだね。
さっき歩いていた時もずっと無言だったからどうしようかと思ったよ。
ちょっと安心したぁ」
楽も笑い返す。
二人して笑った。