「誰だっ! 師匠を放せ!!」
月の隠れた薄暗がり、おまけに爆発の煙で、辺りの視界は悪かった。
しかし、ジュウマは獣人の勘でその男に飛び掛かる。
が、ザブルを抱えているにもかかわらず、男の動きは速い。
顔面を狙ったジュウマの爪を逃れて後ろに飛び退いた。
「くそっ!! 逃げるな!」
爪を避けられ、体勢を崩したジュウマが男をにらみつけて怒鳴る。
その声を聞いたのか、それともまだ何か目的があるのか、男は逃げる素振りさえ見せずに煙の中に立っていた。
再度飛び掛かろうとするジュウマを楽が引き留める。
「待って下さい、ジュウマさん!
この煙では、あの男の動きを目で捕らえることは出来ません。
闇雲に飛び掛かっても相手は逃げてしまいます。
どうやら、あちらからはこちらの動きがハッキリと見えているようなのです。
何故かはわかりませんが……。
なかなか消えないこの煙も何かの魔法なのかもしれません。
拙者が……拙者がやってみます。
森での修行の成果を見ていて下さい……」
そう言って、ジュウマを押しとどめた楽は腰の剣を抜いた。
煙の向こうの敵と真っ正面から対峙する。
……男の眉間が光った。
デントはひそかに詠唱を行っていた。
風の妖精・ウィンドフェアリーを呼ぶため……この煙を晴らすために。
「召喚術師の役割、それは攻撃補助」
森での修行中にザブルがデントにそう言った。
「詠唱を行っている間に敵と戦うのは前衛の剣士達なのです。
決して後衛の私達ではありません。
私達召喚術師は、敵と対峙したときに素早く周りの状況をつかむ。
そして、少しでもこちらが有利になるよう、出来る限りのことをする。
戦況がこちらに有利に傾いてきた時、その時が初めて攻撃系の召喚獣を呼ぶ時なのです。
圧倒的な力で敵の最期を締め括る……わかりましたか?」
ザブルはデントにそう訊いた。
デントは何となくよくわからなかったが、その時はうなずいておいた。
だが、今ならその事がよくわかる。
今、デントに出来ること、それはこの煙を晴らすこと。
楽やジュウマが戦いやすいような場を作ることだ。
だからデントは詠唱を始めていた。
テントから飛び出て、煙の向こうに黒ずくめの男を認めた瞬間から……。
楽が男に向かっていったのは、デントの詠唱が終わる少し前だった。
ものすごいスピードで男の眉間に突きを入れ、そのまま覆面を斬る。
男の顔を覆っていた黒い布がはらりと下に落ち、それと同時に、強い一撃が楽の腹に入れられた。
「うっ……」
ねじり込まれるようなその一撃に、楽は崩れ落ちた。
「ウィンドフェアリー!!」
デントの声と共に、風の妖精が召喚された。
何もない空間から突然現れたその妖精は、小さな羽をはばたかせて驚くほどの風を巻き起こした。
辺りに立ちこめていた煙が嘘のように流されてゆく。
最初に見えたのは砂の上に倒れている楽だった。
そして、体勢を崩さずに立っている男……その顔にはまだ覆面があった。
敵の姿をハッキリと捕らえたジュウマが再度飛び掛かる。
今度は外さない。
相手の顔面を切り裂いた。
地面に落ちる黒い覆面。
だが、男の顔はなおも黒い布で覆われていた。
「?!!」
驚き、飛び退くのが一瞬遅れる。
男にはその一瞬で十分だった。
拳を突き上げ、ジュウマを地に伏せる。
そして、男はゆっくりとデントに向かって歩き出した。
ザブルを片手で抱えているというのに、目にもとまらぬ速さで楽とジュウマを倒し、今、デントをその視野に入れた。
「な、なんだよ……なんなんだよ、おまえ……」
今から攻撃系の召喚をしていたのでは間に合わない。
かといって、この場から逃げ去ることなど出来るはずもない。
男とデントとの間合いはじりじり詰まっていく。