ゆっくりと、だが確実に男はデントに近づいてきた。
覆面の下から唯一のぞく青い目が、デントの青い目とぶつかり、深いダークブルーのその目がデントを捕らえる。
「うっ……」
目が合った途端、体を締め付けられるような感覚がデントを襲った。
右に左に体を揺すろうとも、びくともしない。
足も手も、指先までもがカチカチになって動かすことが出来なかった。
「待て!」
突然、男の背後から声が聞こえた。
デントから目をそらし、ゆっくりと後ろを振り返る。
おかげでデントは体を動かすことが出来るようになったが、今度は体に力を入れることが出来ず、そのまま砂の上に膝をついてしまった。
頭もぼんやりしている。
力を振り絞って顔を上げ、前方を見ると、砂色のフードを被った5,6人の一団が男に向けて剣を構えていた。
「我ら砂漠の民、おまえの狼藉を許すわけにはいかない。
その女性を放し、速やかにこの砂漠から立ち去るよう、警告する」
団の先頭に立っていた初老の男が、凛とした声で言った。
あ、……これが噂に聞く砂漠の民
……大陸最強のストレシア騎士団か……。助かったぁ……
薄れていく意識の中で、安堵感を味わい、そのまま砂の上に倒れた。
そして、砂漠には男とストレシア騎士団が残った。
男は依然として無言で、ピクリとも動かず、ザブルをおいてこの場を立ち去るような動きを見せるわけでもない。
最初に動いたのは騎士団側だった。
騎士団の隊長らしき初老の男が、剣でサッと合図すると、見事なまでに訓練された騎士達が男を取り囲む。
それでも男は動かない。
それを見た隊長らしき男がまた合図を出し、騎士団の剣が一斉に抜かれた。
「最後にもう一度だけ警告する。
ここはストレシア騎士団の管轄下にある砂漠である。
ここでの狼藉は我ら砂漠の民への狼藉と心得よ。
その女性を放し、速やかにこの場から立ち去るよう、再度警告する」
月にかかっていた厚い雲が晴れ、砂漠に青白い月の光が戻った。
その光が騎士団の剣に反射し、中心にいる男を照らす。
全身を黒いマントで覆い、顔には覆面。
そして、ピクリとも動かない。
隊長は3度目の合図を騎士団に送った。
一斉に剣が突き出される。
周りを取り囲まれ、そのまま一斉に剣を受けたのだ。
普通なら串刺しにされて終わりである。
しかし、騎士団の剣は男に触れることなく空を切った。
……男が宙に浮いている。
騎士団は一斉に飛び退いた。
しかし、訓練のたまものか、それでも囲みは解いていない。
そんな様子を、ゆっくりと首を回しながら見る男。
やっと口を開いた。
「我が名はガロン。
あの者達に伝えおけ。
この女は預かった、黒の月に再度我と戦え。
それまでに力を増すがいい、我に勝てれば女を返す、と」
そこまで言うとガロンの体は足から闇に溶け始めた。
「我は消える、この闇へ。
騎士団よ、我を捕らえるなど到底出来ぬ。
我は実体のないもの、そして、永遠に生きるもの……」
体を闇に同化させながら、ガロンと名乗った男は消えた。
砂漠に冷たい風が吹き荒れる。