ザブルの小屋に夜明けが訪れた。
木々に遮られて弱くなった朝の日射しが微かに窓から差し込む。
ザブルの言葉通り、3人はすでに支度を整え、沼の前で待っていた。
バサバサッ
背後の沼から突然聞こえた鳥の羽音に3人が驚いて振り返った時、ちょうどザブルが小屋のドアから出てきた。
「皆さんお揃いですね。それでは出発しましょう。
行き先はここより西の国・ストレシアです。
砂漠を通ることになるので、皆さんこれを着て下さい」
そう言ってザブルは一人一人にマントを手渡した。
うす茶色のそのマントは、かなり丈夫な生地で出来ているようだが、軽い。
ほとんど重さを感じさせない不思議なマントだった。
旅慣れたデントは、フワッとマントを肩に回して素早く身につけたが、マントなど身につけたこともない楽はデントに手伝ってもらいながらもやっとのことで着ることが出来た。
テーヴァではマントなど必要なかった。
砂嵐が吹くでもなく、大雨が降るでもない。
気候は温暖、天候には恵まれすぎているほどだ。
だが、一歩テーヴァから外に出ると、色々な国がある。
砂漠の国、森の国、寒い国、暖かい国……
それぞれの国にそれぞれの風土があり、これは書物で読んだだけでは分からない。
実際にその地を訪れ、自分の肌で感じてみないことには分からないのだ。
行く先々で楽は新しい発見をする。
発見、というよりも、経験といった方がいいかもしれない。
両親に会う頃にはきっと一人前の旅人になっているだろう。
4人は小屋を後にして、まずは南に向かった。
その後、ストレシアを囲むハルントの森から西に入って砂漠に向かうという。
楽は瀞からもらった地図で確認をしようと、荷物の中から地図を取りだした。
「あ、それは……その地図はどこで?」
楽の手にした地図を見てザブルが問い出した。
「え、これですか?
この地図はパブ・ガイアの女主人から……いえ、ウェストルのディレクセェン=瀞さんから頂きました」
楽の答えを聞いてザブルは少し驚いたようだった。
「……そうですか。それではあの人はもう旅をやめたのですね」
「知り合いですか? ……って、そうだよな。
あの人から俺達はザブルさんのことを教えてもらったんだから……」
デントは自分の問いに一人納得する。
ザブルが昔を思い出すように語りだした。
「その地図は、私があのナイト(彼女は若い頃、世界各地を旅しているナイトだったのです)に差し上げたものです。
世界を旅するというのに、地図も持っていなかったのですよ、彼女は。
『行き当たりばったりでいいのさ、旅ってそういうものだろう?』
それが彼女の口癖でした。
しかし、地図は旅の必需品。
彼女が私の小屋まで迷い込んできたときに無理矢理持たせました。
彼女はハーフエルフで、少しながら透視の力が使えるのですが、この森では役に立たない、としぶしぶ地図を見ながら帰っていきました。
……その彼女が今はパブで女主人をつとめているのですか……
あの性格なら上手に店を切り盛りできるでしょう……」
「してるぜ、しっかり。
どこから見ても、女主人。
押しは強くて一方的、アレにはなかなか逆らえない」
「そうですね。でも、とても温かい方です。
瀞さん人柄は人を惹き付けます。お店が繁盛するのもわかります」
3人は瀞のことでまだ何やら話していたが、ジュウマは話に入れない。
一人ずんずん歩いていった。
その日の夜までには、なんとか砂漠の入り口まで辿り着くことが出来た。
砂漠入りは明日、ということにして、今日はこのハルントの森で野宿になった。
西から吹く砂漠の冷たい風が木々を揺らす。
そのため、デントとザブルは二人してファイアフェアリーを呼んだ。
ジュウマは昨日のうちに作っておいた携帯食を出し、4人はそれを食べて眠りについた。