ファンタジア

在村楽34

 今、楽にとって必要なのは、精神を集中させることである。
 今の楽は、リーバと自分の間にある力の差を知って、焦りが先行してしまっている。
 気の乱れがあると、剣先は鈍る。
 アディンバルの道場でさんざん教わったことであった。
 毎日の座禅は何のためであったか。
 勿論、日々の精神統一の心がけのためである。
 この修行の始まりにしても、座禅による精神統一から始まったではないか。

 だから楽は目を閉じた。

 自分の神経を一カ所に集中させる。
 すなわち、剣先に……その向こう側にいるリーバに。

 強い風が吹き、森の木々がざわめく。
 その音さえももう楽には聞こえていない。
 ……精神の統一がなされた。
 力の差は依然として埋まっていないが、焦りは消えた。
 目を開き、リーバを見据える。

 と、何かが見えた。
 リーバの胸の辺りで何かが光ったのだ。
 光が反射しているのではない、リーバの体の内から、何かが光を発している。

 楽にはそれが何だか分かった。
 瞬間的にそれが何か悟ったのだ。
 師匠がよく言っていた。
『剣士の中には相手の急所を見抜いてしまう者がいる。
 その剣士達には相手の急所が光って見えるそうだ。
 どうしてかは分からない。
 生まれついて持った能力だろう、と言われている……』と。
 楽にもその力が備わっていたのだ。
 今まで眠っていたその能力が、窮地に立たされた今、目覚めた。

 また、鳥が飛び立った。

 楽が動く。
 今度の剣に迷いはない。
 リーバの胸の一点に、渾身の突きを放つ。
 リーバも動いた。
 今度は楽の胴を薙ぐ。

 ……鮮血が飛び散り、一人が地面に倒れ込む音がした。
 楽の脇腹からは血が流れている。
 しかし、倒れてはいない。
 両の足でしっかりと地面を踏みしめ、辛うじて立っている。

「おまえ……今のは……」
 楽の足元でリーバがうめいた。
「そうか……これが……おまえの力……か」
 苦しそうにゆっくりと立ち上がる。
「まさか、召喚獣である俺にも……急所があったとは……。
 俺が人間だったら……こうして喋ってもいられないな……」
 徐々にリーバは回復している。
 ……もう苦しみも癒えたようだ。
 驚くほど速い回復である。
「これで、俺の役目も終わった。
 おまえ、人間にしてはなかなかやるな」
 言い終えた瞬間、リーバは消えた。
 今までそこに存在していたのが嘘のように。

 一人残った楽。
 リーバが消えた瞬間、どっと地面に倒れ込んだ。
 流石、テラ=ドラの剣である。
 急所をとらえられていても、狙ったところははずさない。
 確実に楽の脇腹を切り込んでいた。
 相手が本物のテラ=ドラであったら……
 そう考えると、楽は自分がまだまだであるのを思い知る。

 そこで意識が途切れた。

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