今、楽にとって必要なのは、精神を集中させることである。
今の楽は、リーバと自分の間にある力の差を知って、焦りが先行してしまっている。
気の乱れがあると、剣先は鈍る。
アディンバルの道場でさんざん教わったことであった。
毎日の座禅は何のためであったか。
勿論、日々の精神統一の心がけのためである。
この修行の始まりにしても、座禅による精神統一から始まったではないか。
だから楽は目を閉じた。
自分の神経を一カ所に集中させる。
すなわち、剣先に……その向こう側にいるリーバに。
強い風が吹き、森の木々がざわめく。
その音さえももう楽には聞こえていない。
……精神の統一がなされた。
力の差は依然として埋まっていないが、焦りは消えた。
目を開き、リーバを見据える。
と、何かが見えた。
リーバの胸の辺りで何かが光ったのだ。
光が反射しているのではない、リーバの体の内から、何かが光を発している。
楽にはそれが何だか分かった。
瞬間的にそれが何か悟ったのだ。
師匠がよく言っていた。
『剣士の中には相手の急所を見抜いてしまう者がいる。
その剣士達には相手の急所が光って見えるそうだ。
どうしてかは分からない。
生まれついて持った能力だろう、と言われている……』と。
楽にもその力が備わっていたのだ。
今まで眠っていたその能力が、窮地に立たされた今、目覚めた。
また、鳥が飛び立った。
楽が動く。
今度の剣に迷いはない。
リーバの胸の一点に、渾身の突きを放つ。
リーバも動いた。
今度は楽の胴を薙ぐ。
……鮮血が飛び散り、一人が地面に倒れ込む音がした。
楽の脇腹からは血が流れている。
しかし、倒れてはいない。
両の足でしっかりと地面を踏みしめ、辛うじて立っている。
「おまえ……今のは……」
楽の足元でリーバがうめいた。
「そうか……これが……おまえの力……か」
苦しそうにゆっくりと立ち上がる。
「まさか、召喚獣である俺にも……急所があったとは……。
俺が人間だったら……こうして喋ってもいられないな……」
徐々にリーバは回復している。
……もう苦しみも癒えたようだ。
驚くほど速い回復である。
「これで、俺の役目も終わった。
おまえ、人間にしてはなかなかやるな」
言い終えた瞬間、リーバは消えた。
今までそこに存在していたのが嘘のように。
一人残った楽。
リーバが消えた瞬間、どっと地面に倒れ込んだ。
流石、テラ=ドラの剣である。
急所をとらえられていても、狙ったところははずさない。
確実に楽の脇腹を切り込んでいた。
相手が本物のテラ=ドラであったら……
そう考えると、楽は自分がまだまだであるのを思い知る。
そこで意識が途切れた。