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在村楽32

 デントは詠唱を終え、サラマンダラを呼び出した。
「ザブルさん、呼びました……あれ、楽は?」
 熱波を放つサラマンダラの横で、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すデント。
「楽さんには違うところで修行をしてもらっています。
 あなたには今、他人の心配をしている暇はありませんよ」
 そう言うと、ザブルは何やらブツブツ言いだした。
 よく聞くと、召喚の時に使う古の言葉である。
 はじめの方は聞き取れなかったが、最後の方だけは聞こえた。
 ハッキリと……。

「ダン’ドゥー!」
 確かにザブルはそう言った。
「!!!」
 それを聞いたデントは驚いてザブルの顔を見やる。
 その言葉は、サラマンダラを操るときの言葉である。
 デントの横にいたサラマンダラが向きを変え、ゆっくりとデントに向かってくる。
「あなたにはこのサラマンダラと戦っていただきます。
 勝つことができればあなたの力は飛躍的に伸びるでしょう。
 負ければそこで終わりです。
 この森の木々はバリアで再生できますが、人間は再生できません。
 ですから、くれぐれも気を付けて。
 先程、楽さんにも言いましたが、危なくなったら『ザブル・デ・グート』と大声で言って下さい。
 これ以降、私はこのサラマンダラに何の指示も与えませんので、サラマンダラ自身の戦い方をその身でもって体験して下さい」
 デントとサラマンダラの距離はジリジリと詰まっている。

「それでは私はここで失礼します」
 ザブルはそう言って高床の小屋に戻ってしまった。
 沼に残ったのはデントとサラマンダラのみ。
「……サラマンダラと対戦?……勝つ?……」
 事情をうまく飲み込めないデントに最初の一撃がやってきた。

 バシュッ!

 強烈な尻尾の一撃がデントの横に生えていた木をなぎ倒す。
 そこに木がなかったら……と考えるとデントは恐ろしくなった。
 慌ててその場を飛び退き、森の中へ駆け込む。
「やるしか……ないのか……。でも……どうすれば……」
 逃げながら、必死になって考えをめぐらす。
 サラマンダラの移動速度が遅いことがせめてもの救いだ。
 目に入った高い木に登って、サラマンダラの動きを伺うことにする。

 

 こちらは楽。
 気がつくと森の中で気を失っていた。
 辺りを見回すが、そこには誰もいない。
 ウィンディーネに運ばれてここまで来たのは覚えているが、突然、乱暴に投げ出されて地面に叩き付けられた。
 そしてそのまま気を失い、今に至る。
 空を仰ぎ見ると、もう陽は南の空に高く昇っていた。
「おまえが楽か?」
 突然、誰もいないはずの背後から声をかけられた。
 腰の剣に手をかけ、抜刀する。
 が、遅い。
 楽の抜刀よりも、声の主の剣のほうが速かった。
 相手の剣が喉元に触れ、ひんやりした緊張を楽にもたらす。
「いきなり斬りかかろうとするとは、物騒なやつだな。
 まあいい、そのままで話を聞け」
 そう言って背後の声の主は腰を下ろした。
「フェアになるように言っておく。
 俺はザブル様に呼び出された召喚獣・リーバだ。
 獣と言っても、言葉を話すことのできる高等のな。
 俺は、術者の望むように体を変えることができる。
 もちろん、その者の能力も使える。ただし、若干弱くなるがな。
 今はザブル様のご命令で、剣士テラ=ドラになっている。
 だからおまえの剣 も防げた」
 そこまで言って、リーバと名乗った召喚獣が剣を下ろした。
 そして大きく後ろに飛び退く。
 楽も素早く立ち上がり、振り返って剣を構える。
「俺に与えられた命令は、おまえの隠された力を呼び出すこと。
 おまえが傷つこうが、俺には知った事じゃない」
 楽はゴクリと唾を飲み込む。
 目の前にいるのは、多少力が落ちているとはいえ、剣士テラ=ドラである。
 楽と同門であり、アスリースを代表する剣士だ。
 しばらくにらみ合うが、リーバは全くスキを作らない。
 何故か、リーバの方からは攻撃してこないようだ。
 ならばこちらから攻撃を仕掛けるしかない。
 しかし、どこから……?
 楽は考える。
 額からこぼれ落ちる汗が頬を伝った。

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