デントは詠唱を終え、サラマンダラを呼び出した。
「ザブルさん、呼びました……あれ、楽は?」
熱波を放つサラマンダラの横で、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すデント。
「楽さんには違うところで修行をしてもらっています。
あなたには今、他人の心配をしている暇はありませんよ」
そう言うと、ザブルは何やらブツブツ言いだした。
よく聞くと、召喚の時に使う古の言葉である。
はじめの方は聞き取れなかったが、最後の方だけは聞こえた。
ハッキリと……。
「ダン’ドゥー!」
確かにザブルはそう言った。
「!!!」
それを聞いたデントは驚いてザブルの顔を見やる。
その言葉は、サラマンダラを操るときの言葉である。
デントの横にいたサラマンダラが向きを変え、ゆっくりとデントに向かってくる。
「あなたにはこのサラマンダラと戦っていただきます。
勝つことができればあなたの力は飛躍的に伸びるでしょう。
負ければそこで終わりです。
この森の木々はバリアで再生できますが、人間は再生できません。
ですから、くれぐれも気を付けて。
先程、楽さんにも言いましたが、危なくなったら『ザブル・デ・グート』と大声で言って下さい。
これ以降、私はこのサラマンダラに何の指示も与えませんので、サラマンダラ自身の戦い方をその身でもって体験して下さい」
デントとサラマンダラの距離はジリジリと詰まっている。
「それでは私はここで失礼します」
ザブルはそう言って高床の小屋に戻ってしまった。
沼に残ったのはデントとサラマンダラのみ。
「……サラマンダラと対戦?……勝つ?……」
事情をうまく飲み込めないデントに最初の一撃がやってきた。
バシュッ!
強烈な尻尾の一撃がデントの横に生えていた木をなぎ倒す。
そこに木がなかったら……と考えるとデントは恐ろしくなった。
慌ててその場を飛び退き、森の中へ駆け込む。
「やるしか……ないのか……。でも……どうすれば……」
逃げながら、必死になって考えをめぐらす。
サラマンダラの移動速度が遅いことがせめてもの救いだ。
目に入った高い木に登って、サラマンダラの動きを伺うことにする。
こちらは楽。
気がつくと森の中で気を失っていた。
辺りを見回すが、そこには誰もいない。
ウィンディーネに運ばれてここまで来たのは覚えているが、突然、乱暴に投げ出されて地面に叩き付けられた。
そしてそのまま気を失い、今に至る。
空を仰ぎ見ると、もう陽は南の空に高く昇っていた。
「おまえが楽か?」
突然、誰もいないはずの背後から声をかけられた。
腰の剣に手をかけ、抜刀する。
が、遅い。
楽の抜刀よりも、声の主の剣のほうが速かった。
相手の剣が喉元に触れ、ひんやりした緊張を楽にもたらす。
「いきなり斬りかかろうとするとは、物騒なやつだな。
まあいい、そのままで話を聞け」
そう言って背後の声の主は腰を下ろした。
「フェアになるように言っておく。
俺はザブル様に呼び出された召喚獣・リーバだ。
獣と言っても、言葉を話すことのできる高等のな。
俺は、術者の望むように体を変えることができる。
もちろん、その者の能力も使える。ただし、若干弱くなるがな。
今はザブル様のご命令で、剣士テラ=ドラになっている。
だからおまえの剣
も防げた」
そこまで言って、リーバと名乗った召喚獣が剣を下ろした。
そして大きく後ろに飛び退く。
楽も素早く立ち上がり、振り返って剣を構える。
「俺に与えられた命令は、おまえの隠された力を呼び出すこと。
おまえが傷つこうが、俺には知った事じゃない」
楽はゴクリと唾を飲み込む。
目の前にいるのは、多少力が落ちているとはいえ、剣士テラ=ドラである。
楽と同門であり、アスリースを代表する剣士だ。
しばらくにらみ合うが、リーバは全くスキを作らない。
何故か、リーバの方からは攻撃してこないようだ。
ならばこちらから攻撃を仕掛けるしかない。
しかし、どこから……?
楽は考える。
額からこぼれ落ちる汗が頬を伝った。