次の日の朝、よく眠っているところへジュウマがやって来た。
「おい、起きろ。修行が始まる」
窓の外を見たが、まだ陽が昇る前らしく、薄暗い森が見えるだけだった。
ジュウマに起こされ、誘導されるままに小屋の外に出る。
冷たい森の空気が一気に二人の目を覚ました。
ジュウマについて階段を降りると、そこには既にザブルがいた。
「おはようございます、お二方。
今日より修行を始めます。
デントさんは召喚術の基礎的なところから始めてもらい、だいたいウィンディーネが使えるくらいまでの力をつけましょう。
楽さんは魔力以外のもの、そうですね、力の解放を目標にしましょう」
「力の解放?」
楽がいぶかしむ。
「そうです。力の解放です。
あなたにはどこかに隠れた力が見受けられます。
それを解放するのです。
どのようなものかは分かりませんが、きっとあなたの為になるはずです」
「ザブルさん、俺は?
俺は本当にウィンディーネを呼べるようになるんですか?」
『ウィンディーネ』という言葉を聞いて、喜びで顔がにやけている。
「はい。
ただし、今のあなたには少しつらい修行になるかもしれません」
「いいえ、いいえ、構いません。俺、頑張ります」
こうして二人の朝の修行が始まった。
ジュウマはその間に朝食の支度をする。
ボディーガードといっても、やっていることはザブルの召使いのようだ。
鍛え上げられた獣人特有のしなやかな動きで家事をこなす。
随分手慣れているのだろう、動きに無駄がない。
食事の支度がだいたい終わると、今度は森に入っていった。
そして、しばらくの後、傷だらけになって帰ってくる。
一体森の奥で何をしているのだろうか。
「さあ、今朝の修行はここまでです。
疲れたでしょう、ジュウマの用意してくれた朝食をいただきましょう」
太陽が東に昇った頃、ザブルが二人にそう告げた。
しかし、二人は少しも疲れていなかった。
今朝の修行はただ座禅を組んでいただけである。
小さい頃から道場で座禅を組んでいた楽にはほとんど苦にならなかった。
デントにとっても、厳しい両親の元、毎日のように組まされた座禅である。
いまさら苦にはならない。
「こんなんでウィンディーネが使えるようになるのかな……」
少なからず、デントは不安を抱いた。
朝食後、ジュウマはまた森へ、楽とデントの二人は沼に呼び出された。
「それでは昼の修行を始めます。
ジュウマは森で彼なりの修行をしています。
ものすごい音が聞こえることもあるかと思いますが、お気になさらないよう。
それではデントさん、あなたはサラマンダラを呼んで下さい」
「えっ、ここでですか? 木が焼けてしまいますよ?」
「いいのです。この沼一帯には私の特殊なバリアをかけてあります。
木が折れてしまおうが焼けてしまおうが、一日経てば元に戻ります。
さあ、サラマンダラを」
「はい……」
デントは詠唱をはじめる。
「それでは楽さん、あなたは森の中へ。
私がウィンディーネで目的地まであなたを運びます。
着いたところがあなたの修行の場です。
そこで頑張って下さい。
言っておきますが、修行では命を落とすかもしれません。
危なくなったら『ザブル・デ・グート』と大声で言って下さい」
ザブルは用件だけそう言うと、いつの間にか呼び出しておいたウィンディーネに、楽には分からない言葉で指示を出した。