次の日の朝、草原を吹く風で目が覚めた。
昨日とはうって変わって風が強い。
遠くに見える森も風に合わせて踊っているかのように見える。
二人はまた歩き出した。
「今日は随分強い風が吹いてるな」
「こんな強い風は初めてです。
テーヴァではあまり強い風が吹かなかったものですから……」
初めての強風にこころなしかはしゃいでるように見えた。
なんだかんだ言っても、楽はまだ大人になりきっていないのだ。
「はぁ、ここでウィンディーネでも呼べたらなぁ」
しばらく歩いたところでデントがポツリとつぶやいた。
「昨日の疲れがまだとれていないんですか?」
楽が心配そうに聞き返す。
「いや、ウィンディーネは結構上級の召喚だから、俺にはまだちょっと手に負えないんだ。
呼んだとしても、こっちの力が足りなくて返り討ちにあう……。
知らないかもしれないが、返り討ちほど怖いものはないぞ。
なにしろ、相手は古から圧倒的な力を持つ精霊やら獣だからな。
人間なんてアッという間に消えちまう。
俺の師匠も一度それでひどい目にあったらしい……。運良く生き延びたが」
デントはそれを思い出して思わず身を引き締めた。
追い風が吹いてきたので、二人は歩くスピードを上げた。
森がだんだん大きくなり、木々のざわめきが聞こえる。
「近くまで来るとまた違った感じがしますね、この森は」
「ああ」
楽の言葉にデントが相づちをうつ。
実際、近くで見る森は遠くから眺めていた時よりも空恐ろしい感じを与える。
森の入り口では、細い小道が奥まで延びているのが僅かに見えるだけで、暗く、見通しが悪い。
テーヴァに来る旅人達が船を利用しているのが良く分かる気がした。
「……なにか出そうな雰囲気だな……」
デントが一歩引く。
「ここでとどまっていても仕方ありません。
太陽が高いうちにはやく森を抜けてしまいましょう」
楽は引きとどまるデントを促して森への一歩を踏み出した。