ファンタジア

在村楽22

 目の前には相も変わらず、同じ景色が広がっていた。
 もう太陽が西に沈み始め、深いその森はうっすらとしか見えない。
 平原では砂漠ほどではないにしろ、夜になると気温が下がるようだ。
 少なくとも、今までテーヴァから出たことのなかった楽は、そう感じていたに違いない。
 比較的温暖な気候にあるテーヴァでは、朝でも昼でも夜でさえもあまり気温の変化がない。
 国境にそびえ立つ岩山が気温の調節をしている、と昔、道場の師匠から聞いたことがあるが、うまく感覚がつかめなかった。
 予想も経験もしていなかった温度の変化に戸惑う。

 今日これ以上は進めないと判断したデントは、荷物をひろげてどっかりと座り込んでしまった。
「こんな何にもない所で野宿とは……旅立ちそうそうついてないな」
「野宿……ですか」
「そうさ、野宿だ。しょうがないじゃないか、何もないんだから。
 おまえだって他に良い方法が見つからないだろ?
 大丈夫、俺が炎属性のやつを呼んで一夜の暖を保証するから」
 にっこりとデントは笑うが、楽はおそるおそる聞き返す。
「炎属性のやつ……とは、まさか……洞窟での……」
 デントは予想もしていなかった問いに腹を抱えて笑い出す。
「違うって、あんなの呼んだらこの辺一体焼け野原になっちまう。
 それに、サラマンダラは滅多やたらに呼び出すもんじゃない。
 あんなの毎日呼んでたら、こっちがおかしくなるよ。
 俺はまだまだ修行が足りないんでね」
「そ、そうですか……安心しました」
 ホッと肩をなでおろす。
「それじゃ呼ぶぜ!
 ……と言っても、詠唱あるから少し時間かかるけどな」
「それでは、拙者、その間に剣を磨きます」
「そうか、手入れか……大変だな、剣も……」
「はい。でも、この剣は何故か切れ味が落ちないのです。
 旅立ちの際に師匠から譲り受けた剣なのですが、振るう度に切れ味が上がっていくような、不思議な感じがするんです」
「ふぅん、そうなのか……素人目に見ても結構綺麗な剣だからな」
 デントはそう言うと詠唱に入った。
 何と言っているのかは分からないが、拍のついたその音は歌のようにも聞こえる。
 やはり洞窟での詠唱とはどこか違うようだ。

 楽は、歌のような古の言葉を聞きながら剣を磨きはじめる。
 楽の持つ剣は、月の光を受けて刃の部分が青白く光って見えた。
 みねの部分は妖しく黒光りし、引き込まれるように美しい。
 その形から言うと、刀と言った方が良いかもしれない。
 他の国ではあまり見られない、テーヴァ特有の剣だ。
 切れ味は他国で使っているソードよく、刃こぼれもあまりおこさない。
 テーヴァ国内では一般的な剣であるが、他国ではなかなか売っていないため、時には金貨で取引されるようだ。
 その剣を、目を細めて見つめながら磨く楽。
 剣と向き合う楽は真剣そのもので、年齢以上の何かを感じさせる。

 デントの言葉が強くなった。

「〜ジュリス’ジュリス’パー’ドゥー 
   ゲルト’ジュリス’ジュリス’ドゥー
    テレス’ジュリス’ジュリス’ドゥー
     ジュリス’ジュリス’ダン’ドゥー!」
「ファイアフェアリー!!」

 その瞬間、目の前に木の実ほどの小さな炎が現れた。
 その炎は徐々に大きくなり、手のひらくらいの大きさに膨らむ。
 最初は何か分からなかったが、大きくなってやっと、その炎は小さな妖精の羽の部分であることが分かった。
 サラマンダラ程ではないにしろ、熱いくらいの熱が伝わってくる。

「こいつは、ファイアフェアリー。
 俺はフェアリーマスターじゃないから話はできないが、呼びかけには一応答えて出てきてくれるんだ。
 と言っても3時間くらいですぐに帰っちまう。
 でも、それだけあれば十分だと思う。
 こいつが帰ってしまった後も、しばらくは熱が残るからな。
 ……それじゃ、俺は寝るから……
 ファイアフェアリーでも呼ぶと疲れ…る……
 まだまだ修行が…足り…な……」
 言い終える前に眠りへと落ちていく。

 楽も剣を鞘に収め、明日に備えて横になった。

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