関所を越え、平坦な草原を進むと、遠くに深い森が広がっていた。
一日中歩き通しだった二人は、森に入る前に休んでおこうと、良い場所を探している。
「あ〜あ、この辺はホント何もないなぁ……」
「そうですね……広い国ですから、テーヴァと違って自然が沢山残されているようですね」
「いや、これは残りすぎだ。遠くに見えたあの森、緑が深すぎて、先が思いやられるよ。
ラジアハンドなんてほとんど草原で歩きやすかったけどなぁ……」
そう言ってデントはため息をつく。
「ガイアの瀞さんからもらった地図によると、この辺りに砦があるのですが……どこでしょう」
「砦? そんな物見えないぞ……。どっちの方向だ?」
「この地図では北になっています」
二人は目を凝らして北を眺めるが、見えるのは一面に広がる草原とその奥にある深い森だけである。
「……無いぞ。その地図古いんじゃないのか?」
デントがいぶかしむ。
「そうかもしれません。
この手触りは、拙者の師匠が持っていた皆伝書を思い出させますから……」
「……まったく、そんな物持たせるなよ!」
二人は関所らしき物を必死に探したが、やはり見つけられない。
仕方なく森に向かって歩き出した。
「あー、疲れた。おまえもよくわらじで長く歩けるよな」
「拙者は生まれたときからわらじを履いて過ごしていましたので、なんの違和感もないのですが……デントさんは履かないのですか?」
歩きながら二人は会話する。
「俺? 俺は靴を履く。わらじなんて履いたこともないからな」
「そうですか……やはりテーヴァは他の国と少し違うのですね。
これから世界中を回れると思うと、何だか楽しくなってきました」
「まぁ、テーヴァは少しどころかかなり浮いてるからな……」
楽に遠慮してか、後の方の言葉をにごす。
「ところで、さっきから食べているその実はウェストルで会ったときに食べていた毒々しい……いや、興奮を抑えるあの実ですか?」
「これか? これは違う。前に食べていた紫の実はコルトの実だけど、これはナテルの実。こっちには疲れをとる効果がある。
おまえも食べるか?」
「あまり疲れてもいませんが、ひとつ頂きます」
デントは腰に下げている袋から赤い実を取りだし、楽に渡した。
「これはコルトの実と違って、味もなかなかいけるぞ」
確かに、紫のあの実よりは、この赤い実の方が味が良いように思われる。
楽はナテルの実を口に入れた。
ひと噛みしたとき、その味が口の中に広がる。
「……この味……いけますか?」
「まぁ、慣れてくるとな」
デントは笑いをこらえているように見えた。
味はともかくとして、ナテルの実には本当に疲れをとる効果があるようだ。小さな実を一粒食べただけなのに、どこからか力が湧いてくる。
二人の歩調はさっきよりも幾分か速くなったようだ。
二人はまだ半ばとも言えない草原を、黙々と北に向かって歩き始めた。